製品データの入れ物(マスター)を設計するデータクレンジング

 前回は,不具合製品を洗い出し,素早い対応を行うための仕組み(ロットトレース)とその活用の流れを紹介した。ロットトレースの図を再掲載するが,おおよそ業務の流れは理解していただけただろうか。


●図 ロットトレースの仕組み

 さて今回は,データやデータベースについて考えてみよう。

 ロットトレースを実現するには,営業から製造・サービスにいたるまで部門を横断してデータを遡及することが必須となる。図にあるように,製品シリアル番号(S/N:Serial Number)から始まって,部品番号(P/N:Part Number)を通じて,部品ロット番号まで遡及する。このような遡及を実現するためには,それぞれのデータの中に,予めキー項目を辿っていけるように定義する必要がある。このように,データを自分たちが利用しやすいように設計することを,データクレンジングと呼ぶ。

 では,どのようなキー項目を埋め込んでいけばよいのか。キー項目のデザインには,ポイントが幾つかある。特に理解して欲しいのは以下の2つの概念である。

1.マスターデータとトランザクションデータ
2.品目(P/N)マスター

 以下に,この二つの概念を順に解説していく。BOMを中心としたロットトレースの仕組みを考える上では必須の知識であるので,是非自分のものにしていただきたい。

マスターデータとトランザクションデータとは?

 では,製品情報におけるマスターデータとトランザクションデータを,簡単な例で説明しよう。


●図 マスターとトランザクション(シリアル番号管理)

 この図は,部品番号「7HBC-156423」の部品を三つ製造した場合を示している。設計部門は,定義した形状を部品番号で一意に識別しており,その識別番号がこの部品の場合は「7HBC-156423」となる。同じ部品を三つ製造するならば,これらを一意に識別しなくてはならない。このため,シリアル番号をつける。それぞれ001,002,003としてみた。

 安全に関わる重要部品や大型部品では,このように個体を識別できるシリアル番号管理がなされる。一方で大量生産される部品の場合は,ある単位(ロット)でまとめて識別をかける。これがロット管理となる。


●図 マスターとトランザクション(ロット管理)

 ロット管理においては図で分かるように,現品の識別がロット単位ごと(本例においては3個ごと)にしかできない。

 まとめると,マスターデータは設計部門で定義した形状に関する部品番号で識別されるものを指し,トランザクションデータはその形状に基づいて実際に製造された部品個々を識別するものを指すことになる。これが,設計と製造の間を見た場合のマスターデータとトランザクションデータの基本的な考え方だ。


マイスターのつぶやき(1)
マスターは原型といえるだろう。昔は,マスターモデルを作成し,マスターから転写して製品を製造していた。例えば,倣い加工を思い浮かべてみれば分かりやすいだろう。ちなみに,現在でも曲面の多い製品では,今でもマスターが存在する(自動車のクレイモデルもマスターだ)。

 一つ注意してもらいたいのが,マスターデータとトランザクションデータは定義する領域によって,その定義が変化する場合があることだ。先に説明した例では,設計と製造の領域の中で,製造された個々の製品がトランザクションと定義したが,製造から出荷・販売という領域で定義すれば,製造された個々の部品はマスターといえる(ロットトレースの仕組みの図において,マスターデータがどう定義されているか着目して欲しい)。

 BOMでマスター・トランザクションという言葉が出てきたら,どのような領域において定義しているのかは,注意すべきポイントだ。


マイスターのつぶやき(2)
マスターとトランザクションは,オブジェクト指向で言えばプロトタイプとインスタンスの関係といえるだろう。筆者としては,プロトタイプ−インスタンスという概念の方が、製造業のBOMモデルには適合するように思う。最近,インスタンスベースオブジェクト指向で設計されたBOMシステムをよく見かける。興味のある方は,調べてみると面白いだろう。

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