新電力経営の次なる一手は何か。足元を固めるには何が足りないのか――。全面自由化後の急成長に陰りが見え、新たな事業展開を模索する新電力は少なくない。
 そこで日経エネルギーNextは4月11日、「知っておきたい新電力経営の勘所2019」と題したセミナーを企画。新電電力経営に精通した2人のコンサルタントによる講演やQ&Aトークセッションを通じて、新電力が今、考えておきたい2つテーマについて理解を深めてもらうことが目的だ。

 1つ目のテーマはM&A(買収・合併)。東京電力、ドリームインキュベータを経て新電力向けコンサルティングを手がけるビジネスデザイン研究所(東京都港区)の久保欣也社長が登壇した。そして、2つ目のテーマは「需給管理」。全面自由化前にエナリス、エプコで需給管理を究めたAnPrenergy(アンプレナジー、東京都港区)の村谷敬代表が語った。

会場にはエネルギービジネスを手がけるビジネスパーソンが詰めかけた
会場にはエネルギービジネスを手がけるビジネスパーソンが詰めかけた

 「新電力なら知っておきたいM&A」と題して講演した久保氏は、「電力小売りは市場として成熟しつつある。プレーヤーの小規模分散と市場の成熟化がもたらすものは事業再編だ」と断じる。

 小売電気事業者の登録数は4月11日時点で595社。さらに60社以上が申請し、登録を待っている。全面自由化当初は、スイッチングの大半が大手電力から新電力への切り替えだった。それから3年。大手電力から新電力に切り替えた需要家が再び切り替えるタイミングを迎えている。

 その結果、新電力から新電力への切り替えが増えているのだ。スイッチング比率は20%を上回り、確実に増えてはいるものの、「限られた契約数を互いに奪い合うゼロサムゲームになりつつある」(久保氏)。

 事業者の乱立と成熟化がもたらす事業再編は、2018年度に顕在化した。KDDIとJパワーによるエナリスの株式公開買付、東北電力による東急パワーサプライ(東京都世田谷区)への出資、藤田商店(香川県観音寺市)による滋賀電力の吸収合併、サイサン(さいたま市)による坊っちゃん電力買収など枚挙にいとまがない。久保氏は「2019年度もこの流れは変わらないだろう」と読む。

 久保氏は「新電力の間にはM&Aしたら企業価値が上がるという“M&A神話”がある。だが、ただM&Aしても意味がない。目的を明確にしたうえで決断しなければ、双方にとってプラスにならない。また、思わぬリスクを抱えないよう、事前の十分なチェックが欠かせない」と指摘する。

 売り手となるのは、顧客を一定数獲得してキャッシュカウ化させ、累損もある程度解消して数字もいいという事業者が想定される。ただ、成長性に陰りが見えてきたので、そろそろ事業を手放そうかなという小売電気事業者。または、急成長に伴い、資金調達が苦しくなってきた事業者などだ。「電力小売りは運営資金として相当なキャッシュが必要なため、事業の成長に資金調達力が追いつかなくなる中小規模の事業者は少なくない」(久保氏)。

 一方、買い手として想定されるのは、売上や収益を上積みし規模拡大を狙うような事業者だろう。「首都圏から地方にエリア拡大を検討する小売事業者や、ITや太陽光発電を手がける企業で、もう少し売上があれば株式を上場できるという際に電力小売りを追加しようと考える企業もある」(久保氏)。さらに、こうアドバイスする。

 「新電力の経営ノウハウに長けたところを買収しようと考えるかもしれないが、人材さえ確保できれば同じこと。優良な電源を持っているところを買うのも、同様にあまりメリットがない。電源の契約は単年度中心、せいぜい2~3年の契約。随意契約で確保している電源があるのでなければM&Aをしてまで確保する意味がない。他方、顧客基盤や販売チャネル、企業ブランドに魅力があれば買収するメリットがある」。