東日本大震災発生から8年、今年も3月11日を迎えました。東京電力・福島第1原子力発電所事故が起きた福島県では今なお4万人を超える方が避難を続けています。まだまだ事故は終わっていないのだと痛感します。

 電力全面自由化を経て「電気を選ぶ」という新たな選択肢を私たちが手にできたのは、あの原発事故が契機。そして、日経エネルギーNextも3.11がなければ創刊することはありませんでした。慌ただしい日常では原点から思いが離れがちですが、被災地に寄り添い、事故を再び繰り返すことがないよう、事故の教訓を風化させることなく向き合っていかねばと思いを新たにしています。

写真は福島市花見山公園(出所:PIXTA)
写真は福島市花見山公園(出所:PIXTA)

 東日本大震災当日は、東京都心部から電車で2時間ほどの場所に取材に出かけていました。帰社しようと電車に乗っているときに地震が発生。鉄道のサスペンションが揺れを吸収し、「あれ?揺れている?」と感じた程度だったのですが、ほどなくして大地震であったことを知りました。その後、鉄道は一斉にストップ。日付が変わる頃に運転が再開し深夜に帰宅しました。

 地震発生からほどなくして第一陣の取材チームが現地へと向かい、翌3月12日は自宅待機していました。夕刻に福島第1原発の水素爆発の映像が報じられると、数分後には当時の上司から電話が入り、同僚と手分けして取材に向かいました。そこから東京電力の経営問題や電力システム改革の動向などを追いかける日々が始まりました。

 それまで電力ビジネスに関する記事は、経済誌の読者から高い関心を集めることはなく、「メディアの良心として書いておく」という位置づけでした。ですが、3.11後は各誌がこぞって電力特集を組むようになりました。それこそ毎月支払っている電気料金の仕組みを3.11後に初めて理解した方も多かったのではないでしょうか。

 原発事故はこれまで電気料金を“税金”のようにとらえていた消費者の気持ちを変えました。「東京電力以外の電力会社を選びたい」「再生可能エネルギーを使いたい」という声が初めて聞こえてくるようになりました。

 2012年には固定価格買取制度(FIT)がスタート。爆発的なペースで全国津々浦々に太陽光発電が設置されるようになりました。そして2016年4月に全面自由化を迎えたのです。

 ただ、自由化当初に盛り上がったのは一部のアーリーアダプターだけでした。「ちっとも自由化は盛り上がっていない」と言われましたが、今思えば、ある意味、当然のことだったのかもしれません。「電力会社を選択する」という発想自体が3.11以前は皆無だったのですから。

 2000年に電力市場は部分自由化を迎えていましたが、一般家庭の自由化は大手電力会社も含めて、誰も想像していなかったのではないでしょうか。私自身、「家庭の自由化はさすがにないだろうな」と思っていました。

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