関西電力は6月12日、「研究目的でのフランスへの使用済み核燃料の搬出」を福井県に報告した。しかしその量はわずか200トン。2000トン規模としていた中間貯蔵施設の10分の1でしかなく、使用済み核燃料が満杯になる時期を遅らせる効果も同じく10分の1しかない。それにもかかわらず、関電は2023年末を最終期限としていた中間貯蔵場所の確定の約束が「ひとまず果たされた」と一方的に宣言。「福井県外に搬出されるという意味で、中間貯蔵と同等の意義」という驚きの認識を示している。

(出所:123RF)
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 関電の計画について、報道各社は「奇策」「裏技」「その場しのぎ」などの見出しを掲げ、求められていた回答とのかい離を指摘した。こうした厳しい評価が広がる背景には、計画の不可解さと共に、関電が積み上げてきた「負の実績」がある。自らが回答期限を提示しながら、求める回答を示せないということを、関電は繰り返してきたのだ。

期限まで半年 関電は追い込まれていた

 使用済み核燃料とは、原子力発電所で使用し終わった燃料のことだ。核燃料は使用後も発熱が続くため、使用済み核燃料プールと呼ばれる貯蔵庫などの中で、長期間冷却しつづける必要がある。

 国の方針では、使用済み核燃料は全量再処理することになっているが、青森県六ケ所村の再処理施設は着工から30年を経ても完成していない。そのため、行き場の定まらない使用済み核燃料が原発敷地内で際限なく増え続け、なし崩し的に固定化することを、原発が立地する自治体は危惧している。また、原発敷地内の使用済み核燃料貯蔵庫が満杯になってしまうと、原発の運転ができなくなってしまうという問題もある。

 原発が多数立地する福井県は、再処理を待つ使用済み核燃料を一時的に保管する「中間貯蔵施設」 の県外立地を1990年代から求めてきた。その求めにもかかわらず、長い間立地場所は定まらなかったが、2017年に転機が訪れる。

 大飯原発3、4号機再稼働への同意を求めていた関電の岩根茂樹社長が、西川一誠知事(いずれも当時)に「18年中に具体的な計画を示す」と時限を切ったのだ。当時の世耕弘成経済産業相も国として積極的に取り組むと約束。その結果、福井県は大飯原発の再稼働に同意した。

 翌18年、関電は望み通りに大飯原発を再稼働させた一方で、約束していた中間貯蔵施設の候補地を示せず知事に謝罪。「20年を念頭にできるだけ早く具体的な地点を示す」と期限を先延ばしにした。

 さらに関電は、運転開始から40年を超える3基(高浜1、2号機、美浜3号機)の再稼働への同意を福井県に求めていた。新たに就任した杉本達治知事はそれに対し、中間貯蔵施設の候補地提示が「(同意の)議論を始める前提」と明言していた。中間貯蔵の具体化が、再稼働同意の条件になったのだ。

 それでも中間貯蔵施設の候補地は一向に示されなかった。そして、2020年12月という締め切りの直前になって、電気事業連合会が青森県むつ市の中間貯蔵施設の共用化案を突如として提示。関電の森本孝社長(当時)も「積極的に参画したい」と発言した。むつ市に建設中の中間貯蔵施設は、東京電力ホールディングスと日本原子力発電専用のため、共用化によって「そこを関電も利用したい」ということだ。

 しかし、むつ市の宮下宗一郎市長(当時)は「むつ市は核のごみ捨て場ではない」と共用化を拒絶。結局、関電は20年中に候補地を示せず、再び謝罪に追い込まれた。

 翌年の21年になって森本社長は「むつ市の中間貯蔵施設の共同利用も選択肢」「23年末を最終期限として中間貯蔵施設の場所を確定できなければ運転40年超の3基を停止する」と福井県に説明。梶山弘志経済産業相(当時)がオンラインで同席する中で、そうした説明を受けた杉本知事は「議論の前提はクリアされた」と表明。最終的に福井県は3基の再稼働に同意した。「約束を果たせなければ原発を止める」という退路をたった関電の提示によって、福井県は全国で初めて「稼働40年超原発の再稼働」の道を開いたのだった。

 しかしその後、むつ市長だった宮下氏が23年6月の青森県知事選に出馬して圧勝した。関電の使用済み核燃料を受け入れるかを問う、中日新聞の知事選候補者アンケートに対し、宮下氏は「むつ市長時代に対応しているとおり」と回答。拒絶する姿勢を崩していない。ちなみに他の知事候補2人も「受け入れを拒否する」と回答している。つまり、青森県に共用化を容認する空気はなく、関電がむつ市の中間貯蔵施設を利用する道は閉ざされたままだ。

 結局関電は、福井県の求めから20年以上、中間貯蔵を実現できないどころか場所さえ決められていない。再稼働同意を得るために明言した約束を何度も反故(ほご)にして信頼を失い、今に至っている。それが現在地だ。

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