公正取引委員会は3月30日、電力カルテルに関して中国電力、中部電力、九州電力の3社などに独占禁止法違反で排除措置命令および課徴金納付命令を出した。過去最高の1010億円という課徴金総額や経営陣の進退ばかりに目がいきがちだが、今回公取が明らかにしたのはカルテルだけではない。公取の命令の中には「電力・ガス取引監視等委員会に対する情報提供」という項目で、大手電力による市場操作など驚くべき行動が多数記されていたのだ。

 今回、公取が命令を出した電力カルテルは、関西電力が主導し、中国電力、中部電力、九州電力の幹部が相互不可侵の協定を結び、地域独占時代の自社供給エリア(以下、自社エリア)を超える営業を手控えたというものだ。その背景に、2017年から関電が仕掛けた苛烈な安値競争があったことは以前に解説した通りだ(「電力カルテルはなぜ起きた? 関電が安値攻勢をかけた2017年からひも解く」)。

 今回のカルテルは関電が課徴金減免制度(リーニエンシー)を利用し、公取の立ち入り検査前に自主申告したことで、関電は全額免除となった。この時、関電が提出した様々な証拠がカルテル立件につながったとみられる。公取は2021年7月に、関電を除く3社に立ち入り検査に入り、その後も調査を続けてきた。

 この調査の中で公取が把握した事実のうち、電力市場の競争の適正化に資すると思われる内容を監視委員会に情報提供したことが、課徴金などの命令とともに明らかにされた。その内容は驚くべきものだった。大手電力同士の情報交換の実態や価格競争のけん制、自社小売部門への卸価格が新電力よりも安価であった事実、極めつきには日本卸電力取引所(JEPX)の価格操作にまで及んでいる。どれも自由化を崩壊させる内容だ。

 公取が監視委員会に情報共有した7項目は下記の通りだ。公取の書面の文言を、公取への取材内容を交え、簡単に整理したのでご覧いただきたい(原文はこちら)。なお、公取が確認した事実は、2017年末~2020年秋の当該の4社を対象として行った調査で明らかになったものだ。

    1:関電、中部電、中国電、九電による独占禁止法違反があった(電力カルテル)。

    2:大手電力と販売子会社は、(電気事業連合会をはじめ)様々な会合で営業活動に関する情報交換を行っていた。また、他社エリアで営業するときにはあらかじめ「仁義切り」と称して情報交換を行っていた。情報交換は代表者、役員、担当者など各層で行っていた。

    3:監視委員会が大手電力の小売価格を監視するために実施している「小売モニタリング調査」を理由に、他の大手電力に対して安値販売しないようにけん制していた事業者がいた。

    4:大手電力の中には、電力自由化によって競争が起きているように見せるために、価格競争はせず、相互に顧客を獲得することをたくらんでいた事業者がいた。

    5:大手電力は各エリアの電力の大部分を発電している(発電を独占している)。そうした状況にあるにもかかわらず、大手電力の自社小売部門や販売子会社の卸価格を、新電力への卸価格よりも安くしていた事業者がいた。また、自社小売部門や販売子会社の小売価格を、新電力への卸価格よりも安価にしていた事業者がいた。

    6:大手電力の中には、日本卸電力取引所など卸売市場への供給量を絞り込み、市場価格を引き上げることで、新電力の競争力を低下させることをたくらんでいた事業者がいた。

    7:大手電力の中には、新電力に相対取引で電力を卸供給する際に、自社エリアでは販売しないように求めていた事業者がいた。

 公取が把握した事実を見ていくと、大手電力の体質や考え方が浮かび上がってくる。ある業界関係者は公取の命令を読んでこう語った。「自社エリアは今なお自分のテリトリーであり、好きにできるという感覚であることがよく分かる。自由化、市場開放に協力する気もないし、意味すら分かっていない」。この言葉が今回明らかになった7項目へのストレートな印象だ。

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