東北電力は2023年度分の卸販売を相対契約から入札に切り替えた。入札の対象は、卸販売する電力の全量で、自社小売部門(販売カンパニー)も新電力と同条件で応札する点が画期的だ。通年での供給は初回入札を2022年10月、2回目を12月に実施し、いずれも完売。供給余力のある月については、月単位の相対販売の申し込みを2023年2月17日まで受け付けた。東北電はなぜ自社小売部門への供給も含めて、相対から入札に切り替えたのだろうか。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 日本の発電所の約8割を大手電力10社が保有している。発電事業は自由化されているものの、大手電力の寡占に変わりはない。再生可能エネルギーによる発電設備は、大手電力以外の事業者も相当量を所有するが、それでも大手電力が発電事業を独占している状況に変わりはない。

 このため大手電力の発電部門が、自社小売部門と新電力を等しく取り扱う「内外無差別」を実現できるかどうかが、電力小売り自由化の成否を握っているといっても過言ではない。

 東京電力・福島第1原子力発電所事故を経て、東京電力と中部電力は燃料・発電部門を折半出資したJERA(東京・中央)に移管したが、残る大手電力8社は発電部門と小売部門が一体化している。発販一体の場合、発電部門と小売部門のやり取りが社内取引となるため、内外無差別が担保されているかどうかを社外から確認するのは容易ではない。

 そんな中、2022年9月5日に東北電が2023年度向けの卸電力販売は全量を入札にかけ、販売先を決めると公表したことに驚きが走った(「2023年度向け電力の卸販売に係る入札の実施について」)。入札の対象が卸販売の全量であり、新電力に限らず自社小売部門(販売カンパニー)への供給分も入札対象にした点は画期的だ。

 入札へ切り替えた理由を東北電・発電カンパニー事業戦略部電力契約グループの藤巻洋二課長は「これまで卸電力のほとんどを相対契約で販売してきたが、内外無差別に相対交渉していることの説明をきちんとするには相当な労力を要する。入札に切り替えれば、内外無差別の説明が容易になる。発電事業の利益最大化にも効果がある」と説明する。

 近年、電力・ガス取引監視等委員会は内外無差別の実現を重要視しており、大手電力に対して実施しているヒアリングが厳しさを増しているという。監視委員会は相対契約先1社ごとに、交渉の有無から、どのような交渉しているかを細かにヒアリングしている。さらに、売り惜しみしていないか、自社小売部門への販売量を先に決めてから残りを新電力に販売するようなことをしていないかなどもヒアリング対象だ。契約書の雛形の提出や、発電部門と小売部門の情報遮断なども求めている。

 ヒアリング内容が細かいことに加え、ヒアリング時期も対応に苦慮する理由だった。2022年度販売分であれば、2021年末ごろからヒアリングが始まる。「2022年度向けの相対交渉時期と監視委員会のヒアリング対応時期が重なり、非常に大変だった」(藤巻氏)

 さらに、発電事業の利益最大化にも入札は効果がある。「相対契約に不慣れな新電力は少なくない。これまで新電力の供給先は大手などに限られ増えにくかったが、入札であれば過去に付き合いのない新電力も参加しやすいと考えた」(藤巻氏)。

 入札への切り替えは大手電力で初めて。切り替えはトップダウンで決まった。2022年の早い時期から具体的な検討を重ねてきた。自社小売部門への供給分も入札に切り替えた。「内外無差別への対応が厳しさを増していることは公知の事実。入札への切り替えも理解できるという反応が大半だった」(藤巻氏)。

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら