2022年は戦争によって世界でエネルギー安全保障が最重要課題となった年です。日本では3.11から塩漬けにしてきた原子力政策を動かさざるを得なくなり、電気料金の上昇は電力の利用者である消費者や企業の意識を変えようとしています。くしくも同じタイミングで電力カルテルなどの大手電力の不正が明らかとなり、2023年は電気事業制度や電力市場も正常化に向けて動き出す可能性が出てきました。

(出所:123RF)
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 2022年のエネルギー業界は、想像を超える激動の1年でした。専門家はロシアによるウクライナ侵攻は回避できるとみていましたが、予想に反して戦争に突入しました。

 ロシアは世界有数の資源輸出国であり、石油輸出市場におけるシェアは20%、天然ガス輸出市場でのシェアは40%に上ります。戦争によって原油や天然ガスなどの資源価格は急騰し、新型コロナウイルス禍による供給制約と相まって急激にインフレが進みました。国内の電気料金価格も大幅に上昇しています。

 原油・天然ガスの輸出国となった米国が即座にロシア産資源への経済制裁を表明した一方、ロシア資源への依存が強い欧州諸国は一気に輸入制限などに踏み切る判断はできませんでした。石炭、石油と徐々に制裁対象を拡大しましたが、今なお天然ガスへの制裁は実施しておらず、ロシアの戦費が資源輸出で賄われている状況が続いています。

 ただ、戦争は欧州に脱ロシアを決意させました。欧州委員会は、ウクライナ侵攻からわずか2週間足らずでロシア産化石燃料からの脱却計画「リパワーEU」(REPowerEU)を公表しました(「『脱ロシアは脱炭素で』、EUはあと8年で再エネ+原子力を87%に」)。再生可能エネルギーを全力で開発するとともに、省エネを進め、脱ロシアを図る方針を明らかにしたのです。電力需要に占める再エネ比率を2030年に69%まで高め、原子力と合わせた脱炭素電力の割合を87%まで高めるとしています。

 停電が隣合わせの深刻なエネルギー危機に瀕する欧州ですが、それでもロシアの非人道的な行為への怒りが脱ロシアへの揺るぎない決意につながっています。

エネルギー安全保障政策で脱炭素は加速する

 世界はグローバル化をひた走ってきました。エネルギーや食料の自給率が低かったとしても、必要な時に、必要な量を輸入できるというのが現代の常識でした。2022年はエネルギーや食料を輸入に頼るリスクを気づかせた年でした。

エネルギー自給率を高める手っ取り早い方法は、建物の断熱など省エネを徹底的に進めてエネルギーの消費量を減らし、他国の資源に頼らない再エネを増やすことです。再エネ電源で発電し、余った電力は水素として貯蔵するなど、再エネを中心に水素などを組み合わせたクリーンエネルギー活用が自給率向上の中核です。そして、再エネに注力するのは欧州だけではありません。中国やインドなども凄まじい勢いで投資を進めています。

 国際エネルギー機関(IEA)は年次報告書「世界エネルギー見通し2022」で、クリーンエネルギーへの移行が加速すると記しました。今や再エネ導入は気候変動対策や産業政策の側面に加えて、エネルギー安全保障政策の色彩を強めているのです。時代は変わりました。

短期的には天然ガスの調達拡大と原子力の延命

 ただ、再エネ電源の稼働や水素導入などには時間がかかります。欧州の冬の寒さは厳しく、エネルギーが確保できなければ人命を失いかねません。このため、足元では天然ガスや石炭の消費量が増加しています。ドイツが戦争開始からわずか200日ほどで、海上に浮かぶLNG(液化天然ガス)受け入れ基地を稼働させたことなどは、冬のエネルギー確保への危機感の表れといえます。

 ですが、中長期の脱炭素の旗を降ろしたわけではありません。時間軸を持って欧州の動きを見る必要がありそうです。

 もう1つ、行方が気になるのが原子力ではないでしょうか。ドイツが脱原発を2023年4月まで延長したり、ベルギーが老朽原発の稼働期間を延長するなど、原子力発電所の延命を決めていますが、これらは短期的な電力確保のためでしょう。英国は原発の新設により原子力比率を高める方針ですが、原子力が主力のフランスを除き、基本的に各国の電源に占める原子力の割合は減少傾向にあり、将来の主力というわけではなさそうです。

 原子力燃料のウランは化石燃料に比べて調達問題が発生しにくいといわれており、自給率向上が叫ばれる今、将来に向けて増えていくとみるむきもありますが、そう簡単には増えないというのが諸外国での共通認識です。政策的に原発を新設するといっても、稼働までには10年単位の時間がかかり、巨額投資を回収するのは容易ではありません。また、地域住民の合意形成への道のりが険しいのは、どの国も同じです。

 ウクライナ戦争が始まる前に各国が策定した脱炭素時の電源構成を見ると、欧州だけでなく、米国や中国なども含めて、全体の3分の2が再エネです。風力と太陽光で60%ほどを確保し、水力やバイオマスなどの導入量は限定的である点も共通しています。

 欧州のリパワーEUは2050年カーボンニュートラルを待たず、2030年に再エネを69%にする方針であることを見ても、戦争によって再エネ導入が世界でさらに加速することは間違いなさそうです。

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