今夏より深刻な電力不足が懸念されている今冬。政府が冬に向けた対策として実施する「節電ポイント」の全体像が見えてきた。予算規模は1784億円。4400万世帯、40万社超の利用を想定していると言うが、今回明らかになったポイント付与の仕組みでは、およそ目標達成は難しいだろう。

岸田首相は6月21日の物価・賃金・生活総合対策本部初会合で節電ポイントに言及した
岸田首相は6月21日の物価・賃金・生活総合対策本部初会合で節電ポイントに言及した
写真は8月15日の同会合のもの(出所:首相官邸ホームページ

 「政府の節電ポイントの説明会に参加したが、あまりにひどい内容に正直、驚いた」。ある電力関係者は嘆息する。

 資源エネルギー庁は8月2日に開催した第2回 節電・DR促進研究会で、節電ポイントの実施に使う「電気利用効率化促進対策事業費補助金」について説明した。続く8月4日には事務局の博報堂が事業者向け説明会を実施した。ここから見えてきた政府の節電ポイントの仕組みは次の通りだ。

 まず第1に、今回の節電ポイントは、電力会社が実施する節電プログラムへの参加表明を年末までに手続きすれば、節電しなくてももらえる。

 節電ポイントの金額は、低圧は1拠点あたり2000円相当、高圧・特別高圧は1社当たり20万円相当だ。「家庭2000円、企業20万円」と報じられているが、企業の場合、特別高圧の工場などで年間数十億円の電気料金を払っていても、高圧のオフィスビルや営業所などを数千、数万と抱えている場合でも、1社当たり一律20万円相当というルールだ。

 また、低圧で店舗や事務所などを構える場合は、企業であっても1社20万円ではなく、1拠点当たり2000円相当となる。ある関係者は、「企業が2000円分のポイントをもらっても経費処理の煩雑さの方が大きい。法人税の課税所得対象になると、実質1200円ほどのメリットしかないため、低圧法人は申請しないケースが多いだろう」とみる。

 また、高圧以上の電力会社との契約は、拠点ごとであるケースが少なくない。節電ポイントの付与は拠点ごとではなく、1社で1回だけ。複数の電力会社と契約している企業の場合、重複して節電プログラムへの参加表明が行われないように留意が必要だ。「重複してポイント付与を受ける需要家がいても小売電気事業者側で把握するのは難しい。だが重複があった場合、小売事業者に罰則が課される。小売事業者の負担が大きい運用方法になっている」(説明会参加者)。

電力会社の節電プログラムは「数十円」

 電力会社の節電プログラムの内容はさまざまだが、東京電力エナジーパートナー(東電EP)が低圧で実施している「節電チャレンジ2022」を一例として紹介しよう。

 需要家が節電プログラムへの参加を表明すると、まず国からの節電ポイント2000円分が付与される。その後は、前日もしくは当日の実需給(実際に電力を使う時間)の1時間前までに、東電EPから節電チャレンジの対象時間帯が連絡される。需要家は、この連絡に則って対象時間帯に節電に取り組む。需要家ごとに算出する「標準的な使用量」に対して、何kWh節電できたかによってポイントが付与される。東電EPの場合、1kWhの節電に対して5ポイント、5円相当(1ポイント=1円)が付与される。

 「標準的な使用量」は、資源エネルギー庁が定めた 「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するガイドライン」 を参考に、需要家ごとに過去の節電対象時間帯と同時刻の使用電力量を基に算出する。平日の場合、直近5日間の対象時間帯のうち、使用電力量が多い4日間の平均を採用する。 なお、使用電力量はスマートメーターで計測するため、節電プログラムの実施にはスマートメーターが敷設されていることが条件だ。

 東京都環境局のデータによると、集合住宅に住む1人暮らしの場合、平均使用電力量は月間186kWh。1日当たりに換算すると約6kWhだ。また、一戸建ての4人暮らしの場合、月間平均436kWh、1日平均で14.5kWh。ここから1kWhを節電して5円相当というと、月に複数回、節電にチャレンジしたとしてもポイント付与額が数十円相当にとどまることもありそうだ。

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