昨年秋に始まった電力市場の高騰は、歪んだ制度設計と世界的な資源高が相まって終わる気配がない。新電力の経営環境は悪化の一途をたどっており、既に新電力の電力供給量の90%を担う上位54社は、全社が法人契約の新規受付を停止していることが分かった。

 電力会社との契約ができない“電力難民企業”が続出している。昨年から続く資源価格の高騰を背景に、大手電力も新電力も企業が利用する高圧・特別高圧の新規契約を停止しているためだ。

 異変が起き始めたのは2022年頭。契約更新や見積もりを辞退する新電力が出始めたのだ。昨年秋から続く電力市場の高騰で、電力調達コスト(仕入れ価格)が上昇し続け、これまでの電気料金水準での供給が難しくなったためだ(「ウクライナ侵攻で企業向け電気料金が青天井の危機」)。

 既存顧客へのサービス継続すらできないのだから、他の新電力や大手電力からの切り替えを希望する新規契約など引き受けようもない。新規契約の受付を停止する新電力も徐々に増えていった。

 「新電力の受付停止の動きが加速した契機は、今年1月頃に中部電力ミライズが高圧契約の新規受付を断り始めたことだ。大手電力すら新規契約を断っていることを知り、それまでこらえていた新電力が雪崩を打ってギブアップし始めた」(関係者)。

 実際のところ、新電力が契約更新を辞退し始めた時期と、大手電力の受付停止のタイミングはほぼ同じだ。しかし、大手電力各社はWebサイトなどに企業向けの標準メニューとその料金(標準約款)を掲載し続けてきた。

 受け付けを停止している情報は一切、記載されていなかったため、「新電力と契約できなくとも大手電力とはできるだろう」と考えていた企業は少なくなかっただろう。

 大手電力の受付停止が広く知られるようになったのは、4月15日に萩生田光一経済相が記者会見で大手電力に対して、標準料金での受付を停止しているのであれば「開示することが望ましい」と発言したのがきっかけだ。その後、北海道電力と沖縄電力を除く7社の大手電力各社が、受付停止中であることをWebサイトに掲出した。

 高圧・特別高圧の電力契約は1年契約が多い。更新時期が近付いてきたら、次年度の見積もりを取り、契約を締結する。新電力から契約更新を断られ、他の新電力にも大手電力にも断られて驚愕する企業が後を絶たない。

 ちなみに大手電力の標準料金とは、電気料金におけるメーカー小売希望価格のようなものだ。自由化以前は、どんな企業でも申し込みが可能だったメニューである。2000年に電力部分自由化を迎えると、大手電力や新電力各社は標準料金に対して値引きを提案するようになり、標準料金が事実上の上限価格になった。つまり、大手電力の標準料金は、すべての企業が申し込み可能な受け皿でとして存続してきたのだ。

新電力で新規受付を継続しているところは皆無

 では、新電力はどのような状況なのか。経済産業省が毎月公開している「電力調査統計」の「電力需要実績」 を見ると、大手電力と新電力各社の電力供給量(電力販売実績)が報告されている。

 現時点で最新の2021年12月の特別高圧・高圧データによると、新電力が供給している電力量の90%を、上位54社で賄っていることが分かる。さらに、上位180社で99%に達する。

 そこで日経エネルギーNextは、電力購入支援サービスを手がける日本省電の協力を得て上位54社の新規受付状況を調査した。上位54社の社名や電力供給量は電力調査統計を参照してほしい。ちなみに新電力トップはエネット(東京都港区)、第2位のテプコカスタマーサービス(東京都港区)である。

 まず54社のうち新規契約を従来通りに継続しているところはゼロだった。1社たりとも新規契約を受け付けていないという事実に、事態の深刻さが表れている。

新電力上位54社のうち新規受付中はゼロ
新電力上位54社のうち新規受付中はゼロ
図1●新電力による電力供給量の90%を供給する上位54社の新規受付状況 注1:料金に市場連動や最終保障供給と同等もしくはそれ以上などの条件が付いていたり、負荷率などの使用条件が満たした場合に新規受付。注2:自社向けおよび電気事業以外の本業の顧客向けのみ継続している事業者を含む(出所:日本省電の協力を基に本誌作成)

 この54社のうち、破産したホープエナジー(福岡市)に加え、高圧・特別高圧からの撤退を決めた新電力が4社あった。事業を継続している50社のうち、40社は「新規受付は停止中」。各社とも再開のめどは立っていないとした。

 残る10社は、条件を満たした場合に限り新規契約を受け付けている。だが、この「条件」が非常に厳しい。例えばハウスメーカー系の新電力が「自社で手掛けた建物に限って受け付ける」といったもので、一般的な申し込みは受け付けていない。自社およびグループ企業に限って受け付けているというところもあった。

 このほか「最終保障供給より高い料金であれば受け付けを検討する」「市場連動型料金であれば受け付けする」など、電源調達コストの上振れリスクを需要家(電力の利用者)が負うのであれば供給すると答えた新電力が数社あった。また、「高圧で負荷率15%以内の拠点に限って受け付けする」といった回答もわずかにあった。

 これまで通りに事業を継続している新電力は存在しない。法人需要家は大手電力とも新電力とも新たに契約することができない。既存契約の更新を断られるケースも多く、国がセーフティネットとして用意している最終保障供給を利用せざるを得ない状況に追い込まれている企業は増加し続けている。

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