生コンクリートの主原料であるセメントに関して、国内メーカー各社は製造時の燃料に使う石炭の大部分をロシア産に頼っていることが分かった。調達の代替先候補であるオーストラリア(豪州)産などの石炭には欧州からの切り替え需要が殺到し、価格の先行きが不透明だ。ロシア産の石炭の輸入に異変はないのか。船舶情報サービスを使って、セメント大手の運搬船を追跡してみると……。

 石炭は、石灰石などのセメント原料を1450度超の高温で焼成するための主な燃料だ。セメント協会(東京・中央)によると、2020年度は製造時における熱エネルギーの約72%を占める。セメント業界が同年度に輸入した石炭763万トンのうち、ロシア産の割合は約355万トン(46.5%)で最大だ。

2020年度時点。セメント協会の資料を基に日経クロステックが作成
2020年度時点。セメント協会の資料を基に日経クロステックが作成

 一方、財務省の貿易統計で日本全体の輸入量をみると、石炭のうち燃料に使う一般炭は豪州からの輸入が全体の67.4%を占め最多。2位のロシアは14.5%にすぎない。セメント業界は石炭の輸入元がロシアに偏っていることが分かる。

 万一ロシア産石炭の供給が途絶えると、セメントの生産活動に及ぶ影響は少なくない。しかもセメント大手2社はより依存度が高い。JPモルガン証券によると、業界2位の住友大阪セメントが使う石炭の80%、業界トップの太平洋セメントは60%がそれぞれロシア産だ。

 足元ではウクライナ情勢が緊迫しており、日系海運大手がロシア発着便を停止するなど輸送網に障害が出ている。太平洋セメントは日経クロステックの取材に対し、「供給への影響は(3月22日時点で)出ていない。在庫はあり、代替調達を検討している」と回答。住友大阪セメントは日経クロステックの取材に応じなかった。

 現時点で海上輸送に問題はないのか。日経クロステックは世界中の船舶情報を提供するサイト「マリントラフィック」を利用し、住友大阪セメントが保有する石炭運搬船の経路を追いかけた。このサイトでは、船が位置や進路などを発信する船舶自動識別システム(AIS)の公開データを基に船舶の動きをほぼリアルタイムで追うことができる。

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