昨年秋から続く日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場の高騰。電力・ガス取引監視等委員会は新電力の高値入札が市場高騰の主要因だと説明しているが、果たしてそうなのか。そこで、日経エネルギーNextは新電力を対象に買い入札実態をアンケート調査した。

 「新電力による買い入札価格の上昇が、売り札切れの発生時をはじめ、価格高騰を招く大きな要因となっていると考えられる」。電力・ガス取引監視等委員会は昨年12月21日の第68回制度設計専門会合で、JEPXスポット市場の高騰要因は、新電力が80円以上の買い札を入れていることだと説明した。

 「80円/kWh」という価格は、通常時のインバランス料金単価の上限。つまり事実上の最高値入札であり、「絶対買い」(なりゆき買い)を意味している。なお、複数エリアで予備率が3%を下回る需給ひっ迫時の上限は200円と定められている。

 さらに2月18日に開催した第70回制度設計専門会合では、新電力による買い入札価格の推移のグラフを示し、入札価格の中央値が80円/kWhであるとした。加えて、夜間についても中央値が80円であるとの分析結果を示した( 「スポット市場価格の動向等について」 )。

 ただ、新電力からは「恣意的なデータ分析に基づいて、高騰要因を新電力の高値入札に限定しようとしている」という指摘の声が上がっている。監視委員会が根拠に示した買い入札価格の推移のグラフが、17時30分~18時の1コマを取り上げたものだったからだ。

 「17時30分~18時の点灯時間帯は、需要の立ち上がり方が気温や天候で激しく増減する。しかも売り札が少ないコマだ。このコマに注目して過去からの推移をとっても相関は出そうにない」(大手新電力幹部)。

17時30分~18時のコマで新電力の高値入札が高騰要因と指摘
17時30分~18時のコマで新電力の高値入札が高騰要因と指摘
図1●新電力による買い入札価格の推移(出所:電力・ガス取引監視等委員会)

 電力市場に詳しいAnPrenergyの村谷敬代表は、監視委員会の主張には一部無理な部分があると説明する。

 「17時半~18時は、約定価格が平均的に高くなる時間帯であり、インバランス料金単価が高くなるのではと新電力が警戒しやすい。この時間帯の買い落としを回避しようと考えるのはある意味、当然のこと。このコマのデータから、新電力の高値入札が高騰要因だと断じるのは現場感覚に乏しいと言わざるを得ない」

 また、監視委員会が「夜間」の分析に使ったデータが22時~22時30分のコマであったことに対しても、新電力からは「家庭などでは需要の多い時間帯であり、需要が少なく価格が安価な『夜間』とするのは強引だ」という声がある。しかし村谷代表は「このコマで80円が買い入札の中央値なのは高すぎる」と断じる。

 「このコマの平均約定価格を東京の平日で見てみると、今年10月が10.88円、11月が16.23円、12月16.78円と1日の中では低水準。しかも、需給ひっ迫が著しかった昨年1月を除いた2月以降のインバランス料金単価は最大で33円だ。コマごとの価格やインバランス料金単価を分析せずに、全コマで80円を入れているのだとしたら理解に苦しむ」(村谷代表)。

 まず監視委員会には、市場関係者が現状を正確に理解できるように、分析するコマの選択を含めて、データ分析方法の改善を求めたい。

 また、市場高騰の原因は1つではなく、大手電力の入札価格を決める限界費用の算出方法の変更、世界的な燃料価格の高騰など様々な指摘がある。制度設計の不備や情報公開の不足解消、売り札の主な出し手であり市場支配力を有する大手電力の監視など、やらなければならないことは山積みだ。新電力による高値入札が要因だとして、その他の課題解決が後手に回るような事態だけは避けなければならない。

 こうした状況を踏まえたうえで、改めて新電力の買い入札実態を検証してみたい。

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