日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場の季節外れの高騰が始まってから早2カ月となった。なぜ電力需要が少ない秋に、JEPXは高騰し続けるのか。日本最大の発電事業者JERAの発表資料と電力・ガス取引監視等委員会の公表データから、JEPXの西日本エリアで大量買いを続けてきたJERAの動向が見えてきた。

 JERAは11月24日、JEPXへの入札価格を決める限界費用の考え方を変更すると発表した(「2021年度の冬季重負荷期の需給対策について」)。

 日本の発電シェアの8割を占める旧一般電気事業者(大手電力各社およびJERA)は、国に「自主的取組」として余剰電力の全量を限界費用でJEPXスポット市場に供出することを求められてきた。自主的取組は、電力システム改革を進める過程で、市場支配力を持つ事業者による相場操縦行為の抑止などを目的として始まったものだ。

 このため、大手電力各社およびJERAは、余剰電力がある場合には必ず限界費用に基づく売り入札を行う。他方、買い入札に関する規制はなく、必要に応じて行う。

 国は自主的取組に際して、限界費用の算定方法を具体的には定めず、各社の判断に委ねてきた。ただし、算定方法によって入札価格が大きく変化するため、電力・ガス取引監視等委員会は、運用変更する際は1週間前までに対外公表するように求めている。JERAの発表は、こうした要請に応えたものだ。

限界費用と入札行動の関係

 まず、JERAの入札行動を理解するために、限界費用と入札行動の関係から整理したい。大手電力各社およびJERAは、保有する発電所ごとに限界費用を算定し、この金額を基にしてJEPXスポット市場に売り入札と買い入札を行っている。

 限界費用とは、何かを生産する際に、1単位分を追加生産する際に必要な費用のことだ。電力でいえば、発電機の出力を上げたときにかかる費用を意味しており、ざっくり言えば、固定費を含まない発電コストのことだ。

 限界費用は、主に燃料価格と発電所ごとに異なる発電効率を用いて算定する。燃料価格が同じなら、発電効率の良い発電所の限界費用は安くなり、効率の悪い発電所の限界費用は高くなる。30分のコマごとに、電力需要を満たすべく、限界費用が安い発電所(効率の良い発電所)から順に稼働させていく。これを「メリットオーダー」と呼ぶ。

 コストが安い発電所から順番に動かしていき、最後に稼働させた発電所の限界費用がJEPXスポット市場の約定価格(シングルプライス)となる。約定価格よりも限界費用(=入札価格)が安い発電所の売り入札は約定し、発電して電力を供給する。約定価格よりも限界費用が高い発電所は、あえて動かさず、その分を市場調達するという判断も可能だ。

 つまり、限界費用での入札は、自社発電所で発電するのか、市場調達するのかを経済性で選択するためのものなのだ。

 もう少し具体的に説明する。大手電力各社およびJERAが自主的取組により余剰電力を市場に供出する場合は、保有する発電所ごとに算出した限界費用で、各発電所の供給可能電力量分を市場に売り入札する。結果として、限界費用が約定価格より安い発電所は、発電して電力を供給する。限界費用が約定価格より高い発電所は、発電しない。

 では、買い入札についてはどうなるのか。買い入札に対しての規制はないが、発電部門から小売部門への供給分(JERAの場合はグループの東京電力エナジーパートナーや中部電力ミライズへの供給)や、新電力への卸供給分などの送るべき電力について、自社で発電した場合と、市場調達のどちらが経済性が高いのかを判断するためには、限界費用入札が有効だ。

 メリットオーダーに従い、限界費用が高い発電所から、その電源で発電できる電力量分の買い入札を入れていく。その結果、約定価格が限界費用よりも高い発電所は、自社で発電して電力を供給する。一方、約定価格が限界費用より安ければ、自社の発電所は動かさず、その分の電力をJEPXで調達して供給する。

 監視委員会の資料などで「経済差替」と表現されているのが、この動きだ。2020年度冬の市場高騰の事後検証時にも、大手電力各社が相当量の経済差替を行っていたことが報告されている。

 これらの売買入札のほか、大手電力各社はJEPXの取引量を増やすことを目的とした制度「グロスビディング」を実施している。大手電力の社内取引の一部を市場取引すべく、1つの電源について限界費用で売り入札と買い入札を同時に行う。ただし、JERAは11月に東京エリアのグロスビディングを停止している(「JERA幹部が明かす、冬の電力不足を防ぐ「PPA」「限界費用」見直しの意義」)。

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