一種の“騒動”となった温暖化ガス「46%削減」の内幕と影響を詳報する3回連載。最終回の主役は小泉進次郎環境相だ。(前編中編)。
 菅義偉首相が2030年度の温暖化ガス削減目標「46%」を公表する前には、様々な数値が飛び交った。なかでも小泉環境相は「50%」にこだわり、繰り返し菅義偉首相に進言し続けていた。
 一応の決着を見せた温暖化ガス削減目標を巡る「狂騒曲」だが、予期せぬ延長戦に突入した。米国がホワイトハウスの公式Webサイトに「日本の削減目標は2013年比で2030年46~50%」と掲載したのだ。一体何があったのか。

(出所:Adobe Stock)
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 広く情報を共有しない側近政治に興じた菅義偉首相の周りには、日を追うごとに人が寄りつかなくなっていた。例えば、前回触れた「気候変動担当相」に加え「ワクチン担当相」も所管官庁抜きに突如決まったポストだ(「菅首相の示威と計算前提の変更、温暖化ガス削減『46%』の理由はこれだ」)。菅首相の根回しなしの政権運営に、閣僚の間にも不協和音が出始めていた。

 一方で、菅首相は気心が知れた神奈川県選出の議員たちと会合を持つ機会が増えていった。河野太郎規制改革担当相、坂井学官房副長官、小此木八郎防災担当相、そして小泉環境相だ。一部週刊誌ではこの会合を「謀議」と呼び、菅首相が何かを突然決める場合はここが源だともささやかれた。

 その中でも菅首相が寵愛したのは小泉環境相だ。ある政府関係者は「首相は小泉氏の話をよく聞くようになり、小泉氏も相談役のような立ち振る舞いをし出した」と振り返る。

 小泉環境相はバイデン政権で気候変動を一手に担うとされているジョン・ケリー気候変動特使と会談するたびに、菅首相にも「2030年の温暖化ガス削減目標は50%以上を米国は求めている」と耳打ちするようになった。

日本を落とし中印を揺さぶりたかった米国

 米国事情に詳しい専門家によると、確かにケリー特使は強硬なまでに50%以上の削減を求めていたという。「ケリー特使の主張は、パリ協定が求める1.5度目標に整合するように目標を設定すべきだということだ。そのためには日本は少なくとも2030年に50%の削減が必要だ」。

 ケリー特使は、バイデン政権が始動した1月からターゲットとしている国に対し直接交渉をしていた。小泉環境相に限らず、官邸や在外公館などにも強く圧力をかけて、気候変動対策で世界をリードする狙いだった。

 前出の専門家は「ケリー特使が日本に強い圧力をかけるのは、日本がベンチマークになる役割を期待しているからだ。日本を落として二大排出国の中国、インドを揺さぶりたい狙いがある」と分析する。

 タフネゴシエーターとの異名もあるケリー特使は、科学的根拠に基づき独自に分析した各国の最大削減量を示して「これぐらい削減できるはずだ」と迫る。のらりくらりとかわすことを許さない徹底ぶりだった。

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