菅義偉首相は4月22日、2030年までの温暖化ガス排出削減目標を2013年度比で46%減にすると表明した。低迷する支持率の大幅上昇を夢見て、これまでの26%削減から大幅に引き上げたものの、肝心の支持率は一向に上がる気配がない。
それどころか政府内は混乱し、与党、産業界とのあつれきを生む皮肉な結果となった。加えて、近日公表される見通しの2030年のエネルギーミックス(電源構成)は、原子力中心に変わることになりそうだ。一種の“騒動”となった46%削減の内幕と影響を3回にわたって詳報する。
2030年46%削減は、菅義偉首相が就任直後の2020年10月に宣言した「2050年カーボンニュートラル」とは異なり、わずか9年足らずで実現しなければならない高い目標だ。
宣言前には「積み上げでは40%が限界」と報道されていたことを考えれば、「国際的評価に値する高い目標だ」「反対する産業界をよく抑えつけた」という感想が聞こえてきそうだ。だが、現実はそれほど楽観的ではない。
政権内の不協和音は宣言当日から
「46%削減」を発表した4月22日夜、政府の地球温暖化対策推進本部の会合が終わった後に、官邸内で重要閣僚が立ち話をしていた。麻生太郎財務相、茂木敏充外相、梶山弘志経産相、加藤勝信官房長官の4人である。
麻生財務相「46っていうけど、(残りの)6%は積み上げなの?」
梶山経産相「いえ、積み上げは40%です」
麻生財務相「じゃあ、6%はどうするんだよ」
茂木外相「それは環境省にやってもらいましょう」
こんな会話がなされたという。閣内でも46%減という高い数字に驚愕したことを如実に示し、50%削減を強く主張し続けた小泉進次郎環境相に責任をかぶせたいという思いがのぞく。
梶山経産相は、4月27日の会見で「総理の政治決断だ」と述べ、経産省にとっては途方もない数字であることを言下に匂わせていた。
「パリ協定消えるかも」と暗示する財務相
これだけでも閣内の足並みの乱れは明確だが、46%減をいぶかるさらなる声が、主要閣僚から公然と出始めた。麻生財務相は4月27日の閣議後会見で記者から46%減と今後の財政支援について問われた際、こう答えた。一部を抜粋する。
マスキー法は、自動車の排気ガス中の一酸化炭素などの濃度を、わずか5年あまりで10分の1にすることを義務づけた法律だ。当時、「達成は不可能」との声が多かったが、日本メーカーが真っ先に達成した。
「強い環境規制が社会を動かした好例」と認識されている場合が多いが、麻生財務相は「意味の無い投資を生んだ失敗例」ともいうべき真逆の認識を示している。
それに加え、発言全体は「パリ協定はマスキー法同様に消えるかもしれない」と暗示しているようにしか聞こえない。「若い人」は高い数値目標を公言してきた小泉環境相を指しているのではないかといった憶測など吹き飛んでしまう衝撃の発言である。麻生財務相はさらに続けた。
パリ協定そのものに強烈なパンチを加え、「やるのはいいが」としながら条件を述べた麻生財務相。30年の46%減に向けて、閣内が一致団結しているとは到底言えないのは明らかだ。
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