今年も3月11日を迎えました。東日本大震災が発生し、巨大津波が東北沿岸部を襲ったあの日から丸10年。そして東京電力・福島第1原子力発電所事故の発生からも、10年が経ちました。

 電力業界にとって、3.11はこれまでの歴史を大きく変えた日です。あの日、事故が起きていなかったら、これほどまでに電力を取り巻く環境が変わることはなかったでしょう。それほどまでに10電力体制は盤石で、大手電力会社は絶大な信頼を得る存在でした。

(出所:Adobe Stock)
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 原発事故が発生して初めて「電力会社を選びたい」「再エネによる電気を買いたい」という、それまでは表に出ることがなかった消費者の声が聞こえるようになりました。3.11以前は、原子力はもちろん、再エネや電力ビジネスの記事ですら関心を集めることは難しく、エネルギーはメディア泣かせのテーマでした。

 それが3.11で一変しました。民主党政権下であったことも大きかっただろうとは思いますが、消費者の声に後押しされ、2012年の固定価格買取制度(FIT)や2016年の電力全面自由化は実現しました。

 いまや全国各地に多数の太陽光発電所や風力発電所が建ち並び、景色が変わりました。電力を販売する小売電気事業者(新電力)の登録は700社を超えています。電力を生業とするプレーヤー数の増加が、何よりの変化かもしれません。

 再エネ電力の販売やデジタル技術を活用した新サービス、地域の課題を解決する主体としての新電力など、自由化から5年が経ち、プレーヤーの特性が少しずつ出てきています。

この10年で世界は脱炭素へ舵を切った

 この10年の間に、世界の流れも劇的に変化しました。国連はパリ協定やSDGs(持続可能な開発目標)を採択し、世界は一気に2050年のカーボンニュートラルへ向かい走り始めました。

 気候変動により年々激甚化する自然災害への危機意識に加えて、新型コロナウイルスによる景気後退への対策として世界各国が「グリーンリカバリー」を打ち出しています。世界の名だたる企業が、ESGの観点から我先にと再エネ電力を調達しています。

 温室効果ガスの2大排出国である米国と中国が脱炭素を表明したことが、この流れを決定づけました。2020年に、中国が2060年までにカーボンニュートラルを目指すと表明。米国は、今年1月にバイデン新大統領が誕生するやいなやパリ協定への復帰を決めました。

 そして、保守的な姿勢を見せていた日本も、菅義偉首相が2050年のカーボンニュートラルを宣言しました。欧州発の脱炭素の流れは、米中の合流により揺るぎない潮流となったのです。

 この流れを環境問題だと捉えるのは間違いです。脱炭素の実現は、夢物語ではないかと思うほど難しいもの。エネルギーはもちろん、モビリティや都市設計など全てのものを刷新していかなければなりません。つまり、脱炭素を巡るイノベーションが求められており、グローバルな経済競争が始まったことを意味しています。

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