河野太郎規制改革相が、日本の電力システムの姿を変えるかもしれない。河野大臣肝いりでスタートした内閣府の「再エネ規制総点検タスクフォース」が、長年横たわってきた根深い課題にメスを入れようとしている。12月1日の初回会合では、委員全員の連名で容量市場の凍結を求める意見書を提出。第2回会合は12月25日に開催する。

(Adobe Stock)
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 「容量市場はいったん凍結すること。柔軟性に劣るベースロード電源の支援、非効率石炭の延命につながる現状の市場設計のまま、来年度に再び入札がなされることは断じてあってはならない」

 これは12月1日に開催した「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」に、4人の委員全員が連名で提出した意見書の一文だ(「容量市場に対する意見」)。再エネ普及を妨げる非効率石炭火力を温存する容量市場は凍結すべきだと明記した。

 さらに、この意見書には、容量市場の前に需給調整市場や先渡し・先物市場の拡充、発販分離などの基本的な競争環境整備を行ったうえで、ゼロベースで再検討すべきだと記されていた。

 容量市場は、9月14日に公表された容量市場の初回約定結果が大勢の予想をはるかに上回る高額となり、大きな議論となっていることは本誌がこれまで報じてきた通りだ(「容量市場1兆5987億円の衝撃、電気料金値上げ不可避か」)。

 その後はさまざな企業連合や団体が梶山弘志経済産業相や小泉進次郎環境相に意見書や要望書を提出する動きへと発展した。

 例えば、9月28日には再エネ系新電力24社が意見書を提出(「意見書1」)。10月5日に日本生活協同組合連合会(「意見書2」)、10月20日には新電力34社(「意見書3」)と全国消費者団体連合会(「意見書4」)、11月9日には自治体新電力25社(「意見書5」)などが続いた。意見書はその後も相次いでおり、12月22日には生活クラブ連合会が提出している(「意見書6」)。

 これらの意見書は、容量市場制度が消費者への負担を増大させ、新電力経営を脅かし、再エネ普及を妨げると訴えている。初回約定結果は、約1兆6000億円ものお金が小売電気事業者から発電事業者に流れるとあって、見直しを求める声は大きい。

 だが経産省は、公表済みの初回結果は既に決まったものであり、見直しの対象ではないというスタンスを保っている。現在、進めている見直し議論は、あくまで2021年実施予定の次回入札の要綱に関する検討だ。

 そんな状況に一石を投じたのが、容量市場の凍結を求めた再エネ規制総点検タスクフォースだった。

 河野大臣はタスクフォースの席上で、「容量市場の議論の後にカーボンニュートラルの話が出てきたので、ゼロベースで議論しても問題はない。石炭火力の延命につながることや再エネに追加負担となることは、カーボンニュートラルへの阻害要因と言わざるを得ない」と断じた。


河野大臣のエネルギー分野への並々ならぬ思い

 河野大臣といえば、かねて核燃料サイクルに反対の立場を明確に示すなど、エネルギー分野に踏み込んだ発言をしてきたことで知られる。

 ある関係者は、「規制担当相として扱うテーマは多岐にわたるが、エネルギー分野には並々ならぬ思いがある。タスクフォースで取り扱う論点は、事務方に指示したらすんなり進むようなものではない。複数省庁にまたがるものなど簡単には決着しないものばかりだ」と言う。だからこそ、河野大臣自らタスクフォースを主宰。今後も全ての会議に出席する見通しだ。

 委員の構成も、これまでの電力制度関連の会合とは全く異なる。人数が4人と非常に少なく、高橋洋・都留文科大学教授や自然エネルギー財団の大林ミカ・事業局長など、電力自由化や再エネの普及拡大について歯に衣着せず発言する論客を揃えた。

 ある電力関係者は「エネ庁の委員会ではありえない委員の選び方。大手電力会社に忖度する人がいない。この委員名簿を見た時に河野大臣の本気度を感じた。何かが変わるのではないかという気持ちになった」と明かす。

 霞ヶ関界隈からは「タスクフォースの落としどころは見えている、河野大臣のショーに付き合っているだけの話」という声も聞こえてくる。だが、この声は彼らの希望的観測なのかもしれない。

 別の関係者はこう明かす。「タスクフォースに落としどころなどない。難しい論点を取り上げているので、どこまでいけるか分からないが、それでも長年横たわってきた問題を動かしたいと河野大臣は本気で思っている」。

 初回会合では、容量市場のほか、風力発電の環境アセスメントを取り上げた。12月25日に開催予定の第2回のタスクフォースでは、農林水産省が管轄する荒廃農地の転用を取り上げる見通しだ。さらに後ろには系統問題も控える。

 いずれも難題ばかりだが、少しでも動けば、再エネの普及拡大を強く後押しするのは間違いない。

 さらに、河野大臣とこのタスクフォースは、再エネの普及に留まらず、日本の電力システム自体を脱炭素時代にふさわしい新しいものに変えていこうとしているように感じる。

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