大きな議論となっている容量市場。エネルギー戦略研究所の山家公雄所長と、みんな電力の三宅成也・ 専務取締役事業本部長による対談の後編です。今回は「新電力フリーライド論」と「容量市場と再エネ」がテーマです。 前編「容量市場は総括原価方式に戻るためのツールだった」はこちら

--JEPX(日本卸電力取引所)を電源調達に利用する新電力は、電源の固定費を負担しないフリーライダーだという批判があります。なぜ、新電力はフリーライダーだと言われるのでしょうか。

三宅氏 電力自由化後、低迷していた卸電力市場の活性化を目的に、大手電力は政府の求めに従い卸取引市場に「自主的取組」と称して限界費用で玉出ししてきました。「新電力フリーライド論」は、大手電力は限界費用で玉出しさせられているため固定費が回収できておらず、電源調達をJEPXに頼る新電力はフリーライドしているという主張です。

 しかし、需要と供給に応じて、その時の最も高い限界費用で約定価格が決まることは、市場取引のロジックとして何らおかしくありません。しかも、JEPXでは過去に何度もスパイクが起きており、その際にも大手電力の発電部門などの発電事業者は固定費を回収したはずです。市場価格が下がっている今の状況を見て、新電力がフリーライドしているという批判は的外れだと考えています。山家先生は、どうお考えですか。

山家氏 新電力をフリーライドというならば、容量拠出金を手にする大手電力は「濡れ手に粟」もしくは「棚ぼた利益」ですね。まず、少なくとも石炭火力や原子力などベース電源として運用している電源は、卸電力市場で固定費の一部あるいは全てを回収しています。

 今回出てきた「新電力フリーライド論」は、JEPXの約定価格に固定費が含まれていないことを根拠としているようです。そもそも、約定価格に固定費が含まれていないことの何が問題なのでしょうか。最も基本的な経済理論が間違っていると言っているのも同じです。

「経済合理性を重んじる企業は限界費用でオファーするもの」

 価格(市場)メカニズムとは、価格変動によって需要と供給を均衡させることを言います。需要と供給が一致する生産量と価格で経済活動を行うのです。ですから、卸電力市場において、経済合理性を重んじる企業は限界費用でオファーします。限界費用でのオファーが最も合理的だからです。そして、約定価格(均衡価格)において社会厚生も最大になります。

 約定価格とオファーした限界費用が一致した「限界設備」(限界プラント)は、卸電力市場から変動費を回収します。JEPXはシングルプライス・オークションなので、約定価格は限界設備より低いコストで落札できた全電源に及びます。すなわち、限界設備を除き、落札したほとんどの電源は、少なくとも固定費の一部を回収しているのです。

 日本の卸電力市場は1日48コマあり、電力需要によって落札できる設備や電力量が変動し、価格も上下します。価格が上がった時に発電事業者は固定費を回収し、小売事業者が損をします。価格が下がった時は逆です。

 電力自由化で先行する米国でISO/RTO(系統運用者)が運用するリアルタイム市場は5分ごとの取引のため、価格メカニズムがより働くシステムです。需給逼迫時には、48コマで運用する日本よりも価格高騰が起きやすくなります。発電事業者も小売事業者も変動する市場の中でビジネスをしているのです。

 透明性が高く厚みのある卸電力市場では、供給側は自然と限界費用でオファーするようになります。それ以上の価格だと、落札できない恐れがあるためです。日本のように卸市場が未整備な場合は、限界費用でのオファーをルール化します。これは自由化で先行する海外の卸電力市場の常識です。

 約定価格に上限を設けるといった制約が付くと、存続すべき電源も退出を迫られます。このような“市場の失敗”を補正するために「容量メカニズム」を導入するのですが、価格メカニズムを歪めることがないよう、細心の注意を払う必要があります。日本の容量市場は、本来の補正機能という役割を大きく逸脱しています。

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