梶山弘志経済産業大臣が打ち出した石炭火力発電の削減方針は、電力市場にとって良い話ばかりとは言えないようだ。経産省は削減を誘導する「アメ」を用意するという。小売電気事業者の負担が増える可能性がある。

(出所:Adobe Stock)
(出所:Adobe Stock)

 またしても記録的な豪雨が列島を襲い、甚大な被害を出した7月。気候変動による影響が深刻さを増す中、石炭火力発電を減らす取り組みがにわかに始まった。

 7月3日に梶山弘志経済産業大臣が表明した「非効率石炭火力のフェードアウト」を巡る最初の議論が、13日の有識者会議(第26回電力・ガス基本政策小委員会)でスタートした。梶山大臣は表明の前日に大手電力幹部に方針を伝えたとされる。その後、各紙が取り上げたため、国内でもいよいよ石炭火力の削減に向けた取り組みが始まると受け止めた読者も多かっただろう。

 だが、現下で始まった議論はあくまで、2018年に決定した「第5次エネルギー基本計画」の達成に向けて「必要になるはずのプロセスを実効的に推進するための仕組み作り」(資源エネルギー庁幹部)という位置づけだ。

 エネルギー基本計画は足元で32%の石炭火力比率(発電量換算)を2030年度に26%に減らすエネルギーミックスを目標に掲げている。今回の議論は目標達成に必要な石炭火力の休廃止を具体的にどう進めるのかが焦点で、フェードアウトの方針自体はエネルギー基本計画にも盛り込まれていたものだ。

大手電力の非効率石炭への依存度は大きい

 それでも、削減を強いられる発電事業者の負担は小さくない。

 エネルギー基本計画は「超臨界圧(SC)」以下を「非効率石炭火力」と整理している。2018年の総発電量に対する石炭火力の割合32%のうち(発電量で3300億kWh)、「非効率」が半分の16%を占め、「高効率」とされる「超々臨界圧(USC)」以上は13%にとどまる。残り3%は自家発電の自家消費分とされる。

全発電量の16%が非効率石炭火力
全発電量の16%が非効率石炭火力
石炭火力発電の内訳(出所:資源エネルギー庁)

 さらに「非効率」が占める割合は電力会社によっても大きく異なる。沖縄電力は総発電量中、55.1%が非効率な石炭火力によるもので、これに北海道電力(38.8%)、Jパワー(36.8%)、中国電力(27.4%)、東北電力(26.1%)、北陸電力(24.6%)が続く。逆に少ないのは関西電力(0%)やJERA(7.4%)だが、大手発電事業者10社中6社が、総発電量の4分の1程度以上を非効率石炭火力に依存しているのが実態だ。

 既に計画中の高効率石炭火力の新増設を踏まえたとき、石炭火力比率の2030年目標を達成しようとすれば、現在全国で稼働中の110余基の非効率石炭火力のうち9割程度の廃止が必要との試算もある。

 大手電力の中にも非効率石炭火力に頼る事業者が少なくない中で、非効率石炭火力の休廃止を一律に課すことに民間企業である大手電力は難色を示すだろう。電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は17日の定例会見で「経営に影響が出る制度になるのは困る」と発言している。

 そこで、改めて注目したいのが13日の有識者会議で資源エネルギー庁が提示した論点だ。

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら