巨大台風による停電や北海道ブラックアウトを経て、マイクログリッドの導入機運が高まっている。そんな中、全国の関係者が熱視線を送るのが沖縄の宮古島だ。
 ネクステムズ(沖縄県宜野湾市)が中心となって実証を進めている事業モデルは、2019年12月に新エネルギー財団の「令和元年度 新エネ大賞・先進的ビジネスモデル部門」で最高位となる経済産業大臣賞を受賞。名実ともに、日本のトップを走る注目プロジェクトだ。
 だが、ここにたどり着くまでの道のりは平坦なものではなかった。そこには、2人のキーパーソンのたゆまぬ情熱と10年を超える苦難の歳月があった。

宮古島マイクログリッドを育てた2人
宮古島マイクログリッドを育てた2人
右がネクステムズ社長の比嘉直人氏、左が宮古島市役所の三上暁氏

 「社会正義のためにやっている。ビジネスのためでも、再エネ普及のためでもない。宮古島のため、ひいては沖縄の将来のため」。ネクステムズの比嘉直人社長は、いつもこう口にする。

 比嘉氏は約20年勤めた沖縄電力グループの沖縄エネテックを2016年に退社し、マイクログリッド事業をやるためにネクステムズを設立した人物だ。宮古島のプロジェクトの事業主体である宮古島未来エネルギー(MMEC、宮古島市)には過半を出資し、実務も担当する。

 マイクログリッドの定義は様々だが、ざっくり言うと、閉じたエリアで自律的に電力を供給する電力システムのこと。沖縄本島から約290km離れた宮古島は、沖縄電力が系統運営するマイクログリッドといえる。

 MMECは環境省の補助金を利用して、宮古島市内の市営住宅40棟に太陽光発電とヒートポンプ給湯機(エコキュート)を設置。エコキュートを遠隔制御し、太陽光が発電する時間帯に稼働させる電力需要の平準化を図る。さらに、エコキュートによる温水を入居者に、余剰電力を沖縄電力に売電する「再エネサービスプロバイダ事業」を展開している。

 宮古島は船で燃料を運び、島内の発電機を回して電力を供給するため、非常に高コストな電力システムだ。沖縄電力の離島事業の赤字額は約70億円、そのうち30億円が宮古島だ。需要を平準化できれば、発電機の台数を減らすことができる。発電コストの半分を占める固定費が削減できれば収支は大幅に改善する。「50%を切っていた負荷率を75%にまで高めれば、固定費は半分になり、沖縄電力の宮古島の赤字を解消できる」と比嘉社長は試算する。

 再エネや蓄電池などの分散エネルギー資源(DER)を活用し、需要を変化させるマイクログリッドは、ともすれば大手電力のビジネスモデルとの間で軋轢をおこす。だが、うまく活用すれば離島や過疎エリアの高コスト問題や防災機能の強化といった利点が生きる。

宮古島市は2050年にエネルギー自給率48.9%を目指している
宮古島市は2050年にエネルギー自給率48.9%を目指している
宮古島の中心部にある市役所

 だからこそ、比嘉社長は社会正義のためにやるのだと繰り返し語る。マイクログリッドは島の未来のための事業であって、商売優先ではない。離島のコストを低減できれば、沖縄電力の経営負担は小さくなり、社会コストが下がる。

 比嘉社長は、地元・沖縄への思いと電力システムへの深い理解、そしてDERを遠隔制御する実務ノウハウを併せ持つ。そして、比嘉社長が沖縄エネテック在籍時から10年来、併走してきたのが、宮古島市役所・企画政策部エコアイランド推進課係長の三上暁氏だ。約10年にわたりエネルギー政策に関わってきた。

 宮古島の課題を誰よりも理解する三上氏には、「電力が自由化された以上、いずれ規制料金は撤廃される。沖縄電力にユニバーサルサービスの義務がなくなったら、宮古島の電気料金はものすごく高くなってしまうかもしれない」という危機意識がある。

 大手電力はユニバーサルサービスの義務を負っている。発電コストが割高な離島でも、電気料金は本土と同水準に設定している。電力システム改革が進む中、ユニバーサルサービスが今後どうなるのかは、まだ決まっていない。三上氏は、「なくなる前提で宮古島のエネルギーを考えておかないといけない。そのためにも自給率を高めることが必要」だと語気を強める。

 今でこそ全国から注目を集める宮古島のマイクログリッドだが、ここまでの道のりは非常に険しいものだった。民間と行政、立場の違う2人のたゆまない情熱があったからこそ、今の形にたどり着いたのだ。

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら