経済産業省が検討中の新制度「託送料金の発電側基本料金」への不満が噴出している。この制度は発電事業者に託送料金負担を求めるものだが、再エネ電源の負担が火力発電に比べて大きい点が争点となっている。電力業界だけでなく、RE100を目指すトップ企業が異論を唱え始めた。

 「SDGsへの取り組みやRE100達成のために再エネを購入したいという消費者の負担を増大させるとともに、国民負担を抑制しつつ再エネの最大限の導入を図ることで2030年のエネルギーミックスを達成するという我が国の方針にも沿わないものと考えます」

 これは、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)が11月6日に経済産業大臣に宛てた意見書「託送料金の発電側基本料金に関する意見」の一文。新制度がRE100 企業の負担を増大させ、再エネの主力電源化を阻むと強く批判している。

 JCLPは気候変動をテーマに127社が集まる一大企業グループだ。事業活動で使用する電力を再エネ100%にすることを目指す国際イニシアティブ「RE100」の国内対応窓口も担当する。リコーやイオン、積水ハウス、アスクルなどの国内RE100企業に加えて、米アップルなどの外資も含めて22社のRE100 企業が参画。中小企業版RE100の「RE Action」参加企業11社も参加している。

 固定価格買取制度(FIT)を筆頭に、再エネにまつわる制度変更は目まぐるしい。ちょうど1年前の2018年秋には「太陽光の長期未稼働問題」が大論争となった。だが、これまで声を上げてきたのは、再エネ事業者や彼らに資金を提供する金融機関などの業界関係者。今回のJCLPのように、再エネ電気を購入する需要家が制度変更に異を唱えるというのは、これまでになかったことだ。

再エネ電気を割高にする発電側基本料金

 なぜ、JCLPは発電側基本料金に「NO」を突き付けたのか。それは、火力発電による電気に比べて、太陽光や風力による再エネ電気が割高になる可能性が高いためだ。

10月1日に開催した自民党「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」
10月1日に開催した自民党「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」

 託送料金は送配電網の利用料金だ。一般送配電事業者が送配電網を維持・運用する際の費用をエリアごとに総括原価方式によって算出し、託送料金で回収する。特別高圧、高圧、低圧で料金単価が異なり、それぞれ基本料金と従量料金で構成している。

 現行制度は、小売電気事業者が「需要家に電力を販売する際に送配電網を使う」という理由で託送料金を負担している。小売電気事業者は託送料金を上乗せした電気料金を需要家から徴収し、一般送配電事業者に託送料金を支払う。

 新たに導入を検討している発電側基本料金は、託送料金を小売電気事業者だけでなく発電事業者にも負担させ、託送料金を確実に回収しようというものだ。

 送配電網の維持・運営費用にかかる費用の約8割は、流れる電力量の大小にかかわらない固定費。ところが基本料金での回収率は3割にとどまる。今後、人口減少や省エネによる需要減、さらに自家消費が広がれば系統を利用する電力量は減少していく。現行制度のままでは系統の維持・運用にかかる固定費が回収できなくなるおそれがあるというのが、エネ庁の主張だ。

 発電側基本料金を含めた託送料金制度の見直し議論は2016年に始まった。その後、電力・ガス取引等監視委員会の「送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループ」が2018年6月に中間とりまとめを公表。翌7月に閣議決定した「エネルギー基本計画」に、発電側基本料金を導入すると記載した。ここまでの議論では太陽光発電協会などの再エネ業界団体も制度の趣旨に理解を示した経緯がある。ところが、新制度は紛糾している。なぜなのか。

 詳細な課金方法が政策議論に登場したのは、今年の2つの委員会においてだ。1つが今年8月の「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」の第三次中間整理。そしてもう1つが、今年9月の監視委員会「第14回 制度設計専門会合」である。

 前者で、後述するFIT電源への調整措置の対象を限定する可能性が浮上し、太陽光業界が猛反発。そして、それに呼応してRE100企業が「再エネ電力が割高になる」と異論を唱えたのだ。他方、エネ庁は、2019年内にも制度設計を終え、2023年度に新制度を導入する方針を掲げている。

 再エネ電力が割高になる理由は、発電側基本料金を発電設備の出力(kW)に対して一律に課金することによる。みんな電力の三宅成也・取締役事業本部長は、「kW当たり一律の負担とした場合、発電所の稼働率によってkWh当たりの負担金額が変わってくる。稼働率が低い太陽光や風力は発電量に対する負担額が大きくなってしまう」と指摘する。

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