2022年度以降の新インバランス料金は1kWh当たり最大600円――。

 11月15日に開催した有識者会議(制度設計専門会合)で電力・ガス取引監視等委員会は事務局案を提示した。6月の会合で示した「1900円/kWh」と「600円/kWh」のうち、安い方に絞り込んだ格好だ(「インバランス料金『最大1900円』の波紋」参照)。しかし、卸電力市場の相場からかけ離れた高額であることに変わりはない。

 会合に出席した新電力幹部からは「効果より弊害が大きい」「(600円の事態が)起きれば混乱する」など反論が相次いだ。

 新インバランス料金は2021年の需給調整市場立ち上げに伴うルール改正だ。発電や需要の計画値と実際値のズレに課されるインバランス料金は、これまで過渡的な措置として、スポット市場と時間前市場の加重平均をベースに算出してきた。

 本来は実需給時の調整コストが反映されるべきものであり、需給調整市場が新たに立ち上がることで、これがはじめて可能になる(新インバランス料金の適用はシステム開発にかかる時間を考慮して2022年度から)。

 ルール改正に合わせて導入するのが、需給ひっ迫時の「補正インバランス料金」だ。需給がひっ迫し、「上げ調整力」が少なくなった状況での不足インバランスは、大規模停電など系統全体のリスク増大につながりかねないという考えから、インバランス料金を人為的に上昇させ、需給の改善を図る狙いがある。

 インバランス料金の設計を主導する監視委員会が、安定供給を重視する資源エネルギー庁や電力広域的運営推進機関との協議を経て導入を決めた。

 11月15日の有識者会議では具体的な補正インバランス料金カーブのほか、節電要請や計画停電といった緊急の需要抑制策を政府が発した際のインバランス料金の決め方などが提示された。需給ひっ迫時のインバランス料金の全体像と言えるものだ。

 需給ひっ迫時のインバランス料金は、需給調整市場で決まる通常インバランス料金と人為的なカーブで決まる補正インバランス料金のいずれか高い方を採用する。補正インバランス料金は広域的な予備率(連系線分断時はブロックごとの予備率)が10%以下になった時点から直線的に上昇しはじめ、8%で45円/kWhに、それ以下ではさらに傾斜(上昇率)が上向きになり、3%以下は600円/kWhの上限額が適用される。

予備率3%以下で600円/kWh
予備率3%以下で600円/kWh
監視委員会が提示した補正インバランス料金カーブ(出所:電力・ガス取引監視等委員会)

2018年夏のひっ迫時は242円

 補正カーブの節目となる料金や予備率は、一般送配電事業者(大手電力の送配電部門)が現在公募で確保している厳気象対応電源(電源Ⅰ'=イチダッシュ)の調達価格や運用を参照している。

 厳気象対応電源とは10年に1度程度生じる猛暑や厳寒に備えた調整力で、大半は通常の電源ではなく、アグリゲーターを介したDR(デマンドレスポンス=需要抑制)が占めている。

 過去の実績から補正が始まる予備率「10%」は電源Ⅰ'の調達開始、傾斜上昇が始まる「8%」は確保した電源Ⅰ'が不足し始めるポイントに相当。8%時点のインバランス料金45円/kWhは電源Ⅰ'の限界費用(実働費用)に当たる。

 では、過去の需給ひっ迫に今回の補正インバランス料金を当てはめるとどうなるのだろうか。

 予備率が10%を下回り、エリアの一般送配電事業者が電源Ⅰ'を発動したのは過去3ケースあり、そのうち2ケースは東京エリアで、2017年度冬(2018年1月22~26日、2月1~2日、22日)と2018年度夏(2018年8月1~2日、22日、27日)に起きた。

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