「ようやくの思いは強いが、前進と評価したい」(新電力幹部)。

 電力・ガス取引監視等委員会は「小売市場重点モニタリング」という新たな取り組みをこの9月にもスタートさせる。7月31日の有識者会議(制度設計専門会合)で決まった。

 これまで大手電力の安値攻勢や取り戻し営業が新電力を悩ませ続けてきた。多数の新電力は安値攻勢に対して原価割れ価格で競争相手を排除する「不当廉売」や「差別対価」に当たるのではないかと繰り返し指摘してきた。

 既に「取り戻し営業」については、監視委員会は2019年に入ってスイッチング情報の営業利用禁止などを「小売営業ガイドライン」(電力の小売営業に関する指針)に盛り込むなど、取り締まりを強化した。

 取り戻し営業は、顧客が大手電力から新電力にスイッチングする際、一般送配電事業者に寄せられる廃止取次情報などを利用して、大手電力の小売り部門がその顧客に対して新電力より安値を提示してスイッチングを阻止するという行為を指す。

 今回の小売モニタリングは、取り戻し営業を含め、新電力が対抗不能な安値を提示するケースを対象に調査するというものだ。

卸市場価格より安い小売料金は不当廉売?

 大手電力の安値攻勢が強まったのは、全面自由化から1年ほど経過した2017年頃からだ。

 2018年1月から11月にかけて新電力から廉売の疑いに関する情報提供があった204件について、監視委員会は該当する大手電力に任意調査を実施した。その結果、託送費用や燃料調整費を除く契約単価がこの期間の卸電力取引所の平均価格である10円/kWhを下回るケースが多数見つかった(実数などは未公表)。負荷率が10~20%と低いケースに対しても同様の安値が確認されている。

 取引所からの調達に頼る多くの新電力にとって、卸市場価格は電力の調達原価に相当する。これより安い小売料金は不当廉売の疑いがあるというのが新電力側の主張だ。

 だが、これまで不当廉売が摘発された事例はない。複数回にわたって大手電力の廉売の実態を訴えてきたというある新電力の幹部は「我々の情報提供に対する監視委員会からのフィードバックは一切ない。どのような対応を取ったのかは不明」と話す。

 今回の小売モニタリングは「競争者による申告」を調査対象とする。監視委員会は新電力などから、大手電力などの小売料金から託送料金を除いた金額が前年のエリアプライス平均を下回るケースの情報提供を求める。2018年度のエリアプライス平均は東京エリアが10.68円/kWh、関西エリアが8.88円/kWh、北海道エリアが15.03円/kWhだった。

 小売モニタリングで事態は改善するのか。

 現行の「適取ガイドライン」(適正な電力取引についての指針)においても、「供給に要する費用(原価)を著しく下回る料金で、他の小売電気事業者の事業活動を困難にさせる」ことは「差別対価」や「不当廉売」などに当たるとして、取り締まりの対象になることが明記されている。

(出所:PIXTA)
(出所:PIXTA)

 つまり、行政指導の基準はすでに法的に明確になっており、監視委員会はこれに抵触する事例や事業者に対して業務改善命令などを発することは、これまでにいくらでもできたように見える。

 実際、これまでに数多くの新電力が監視委員会に廉売の現状を訴えてきた。「新たな申告制度を立ち上げることで、これまでの状況がどこまで変わるのか」(新電力幹部)。新電力からは効果を疑問視する声も上がる。

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