インバランス料金は最高で1900円/kWhまで上がる仕組みに――。

 「2021年以降のインバランス料金」を巡り、6月25日に開かれた電力・ガス取引監視等委員会主宰の有識者会議の場で電力広域的運営推進機関の佐藤悦緒・前事務局長が推した案である。

 監視委員会が制度設計を進めている2021年以降のインバランス料金は、需給調整市場が新たに創設されるのに合わせて、インバランス料金を根本的に見直すものだ。

 監視委員会はエリアの中央給電指令所や日本卸電力取引所(JEPX)などでシステム改修に必要な時間を確保するため、6月までに新制度を仕上げることを目指してきた。

 この日までの議論で制度の大方は固まったものの、詰め切れない問題が1つ残った。需給ひっ迫時のインバランス料金である。監視委員会と広域機関との見解の違いを埋めきれなかった。4月に監視委員会が提示した案より、ひっ迫時のインバランス料金が高くなる広域機関案が6月に出てきた。幸い両者の違いがシステム改修に与える影響は小さく、改修と並行して議論を継続することになった。

「需給ひっ迫対応が間に合わない」

 ひっ迫時と平常時で算出法を分け、ひっ迫の度合いが強まるほど、インバランス料金の上昇度合いも強まるように補正する。こうした手法は、英国やドイツも採用している。停電に伴う社会コストを大きなものとみなし、一般送配電事業者が緊急的に供給力を追加確保するためのコストをインバランス料金に反映させる考え方だ。

 監視委員会と広域機関もこの方向で一致していたが、具体的な補正カーブを決めるパラメーターの置き方で意見が分かれた。

 2021年以降、小売電気事業者や発電事業者が需給を合わせる最後の機会である「時間前市場」の閉場(ゲートクローズ)後、一般送配電事業者が新設の「需給調整市場」から調達した調整力(ΔkW)で、残った予測誤差や時間内変動を最終的に調整することになる。

 佐藤氏は「これまでは電源Ⅱ(大手電力が小売り向けに確保していた電源の一部)も調整力として使えたが、21年以降は需給調整市場から調達したΔkWしか頼るものがない」として、「(一般送配電事業者が需給調整を行う前段階で同時同量を行う)小売電気事業者や発電事業者にいま以上に責任を負ってもらう必要がある」と主張した。

 しかも、これまでエリアごとで行っていた最終調整は、広域(市場分断していない範囲)で安価な調整力を優先して使う手法に移行する。そのため「これまでエリアごとに順を追って需給ひっ迫対策が取れたのに対して、従来と同じ予備率管理では広域で急に需給がひっ迫した事態に遭遇し、対応が手遅れになる恐れがある」(佐藤氏)とも指摘する。

 こうした主張に基づき、監視委員会が4月の段階でインバランス料金に需給ひっ迫状態を反映するための補正カーブの立ち上げ基準点をこれまでの予備率管理に準じた需要の「3~5%」と提案していたのに対して、広域機関は「8~10%」とひっ迫の定義を広く取るよう求めた。この点は、「ひっ迫時の広域的な需給対策には時間的余裕が必要」との理由から、送配電の専門家である林泰弘・早稲田大学大学院教授も支持する。

最大で1900円/kWh
最大で1900円/kWh
広域機関が提案する需給ひっ迫時におけるインバランス料金(出所:広域機関)

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら