(出所:PIXTA)
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 「日本経済の埋没感が著しい。ホルムズ海峡では危機を見せつけられた。いま、『3E』に胸を張れるのか」。議論の冒頭、日本総合研究所会長の寺島実郎氏がこう口火を切った。

 7月1日に開かれた総合資源エネルギー調査会基本政策分科会。資源・燃料、電力・ガス、省エネ・新エネなど資源エネルギー庁が所管する政策を包括的に審議し、エネルギー基本計画など上位のエネルギー政策をとりまとめる場だ。この日は、元東レ社長で日本経済団体連合会前会長の榊原定征氏が4月に分科会会長に就いてから初めての会合で、最近のエネルギーを巡る動向と政策の進捗について議論が交わされた。

 政府は「経済性」「環境」「安定供給」に原子力などの「安全」を加えた「3E+S」を日本のエネルギー政策の基盤と位置づける。この日の政策説明でもエネ庁幹部が何度も口にしたキーワードだ。

エネルギー情勢 5つの変化

 だが、寺島氏をはじめ、集まった18人の有識者がそろって口にしたのが、「3E+S」の現状や進捗に対する懸念や危機感だった。

 6月13日、中東のホルムズ海峡付近で日本企業が運航するタンカーが襲撃を受けた事件は、この地域の緊張がもたらすリスクの大きさを多くの日本人に思い起こさせた。中東の石油依存リスクは1970年代の石油ショック以来、長く語られてきたこの国の脆弱性だが、40年以上経った今日も一次エネルギーの4割を石油に、その8割を中東に依存している。

 一方、米国は既に石炭、LNG(液化天然ガス)で純輸出国となり、石油も近く純輸出国になると見込まれる。エネルギー大国への変貌を背景に、イラン制裁や中ロへの対抗姿勢を強める外交に転じた。ホルムズ海峡が緊張したとき、中東リスクがゼロになった米国をどれだけ頼れるのか。「日本と同様に中東依存の高い中韓との連携など『プランB』が必要」(寺島氏)との指摘も聞かれた。

 エネ庁はエネルギー情勢を巡る動向として、米国、中東などの地政学リスクの変化と並んで、「需給構造の変化」「環境認識の変化」「テクノロジーの変化」「日本の立ち位置の変化」という5つの変化を挙げた。

 需給構造は需要面では新興国の比重が増し、供給面では設備容量で再生可能エネルギーが石炭火力を超えた。環境対応では、欧州金融機関による石炭採掘や石炭火力からの投資撤退が顕在化。テクノロジー面では、中国や欧米で電気自動車の普及が加速し始めた。日本の立ち位置の変化としては、国内需要の減少によるバーゲニングパワーの低下やインフラ投資の低迷などが目立ち始めていると指摘する。

 こうした政府の認識に対して、委員からは情報化や再エネの技術開発の遅れを懸念する声が相次いだ。

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