「協生農法」や直流を使った分散型の電力供給システムなど、独創的な技術で社会問題の解決を目指すソニーコンピュータサイエンス研究所。所長を務め、研究者としても著名な北野氏は、世の中の大問題に挑む事業になれば、ソニーほどの大企業は必ずビジネスにつなげられると見る。同所が手掛ける基礎研究の事業化への道筋と、研究者として注力する次の課題を聞いた。

北野 宏明(きたの・ひろあき)
北野 宏明(きたの・ひろあき)
1984年、国際基督教大学卒業。1991年、京都大学博士号(工学)取得。1993年、ソニーコンピュータサイエンス研究所入社。2011年、同代表取締役社長。2001年4月、特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構を設立、会長を務める。ロボカップ国際委員会ファウンディング・プレジデント。専門は計算生物学、人工知能、ロボティクス。(写真:加藤 康)

――「協生農法」と呼ぶ独自の農法に取り組んできた経緯は(協生農法については関連記事参照)。

 (ソニーCSL アソシエートリサーチャーの)舩橋(真俊氏)がやりたいと言ってきたことがはじまりです。彼はもともと東大の合原(一幸)先生のところで修士のときに複雑系の科学を学び、その後、仏エコールポリテクニク大学院で物理学のドクターを取得。ちょうどその頃、我々のパリ(Sony Computer Science Laboratory Paris)のオープンハウスに来たのかな――それが最初だよね、確か。その後、連絡があって、CSLに参加したいと言ってきた。ベルギーに出張に行ってパリに戻るときに、パリのGare du Nord(北駅)の近くのタイレストランで話を聞いた。それで面白く、これは可能性があるかなということで、(ソニーCSLに)入ってもらいました。そのときに複雑系と農業という話はもうしていて、彼の興味はそこに集中していたので、当時から協生農法のアイデアはあったと思いますね。(ソニーCSLに参加したのが)2010年10月なので、5年前のことになります。