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最終回の今回は、体験価値を求める手法の手順や注意点を解説する。フォトエッセイから価値を導出するときには、抽象的になり過ぎない、テーマから逸れない、といった点に注意する必要がある。基本的に主観的な分析手法であるため、実地での経験を積みながらコツを身に着けていく必要がありそうだ。最後に、UXデザインを全社に根付かせるための企業の取り組みも紹介する。(本誌)

 今回は、前回紹介したフォトエッセイとkA法による価値観の導出を実際にやってみるときの細かい手順や、注意点などを紹介したい。

 フォトエッセイの結果をKA法のカードにまとめるときの手順を図1に示した。図1の右側のカードが筆者が工夫したKAカードで、上の写真とその下の「出来事」に、フォトエッセイの写真や説明などを転記する。これを基に、「ユーザーの心の声」と、そこから導かれる「価値」を書き込むのが、KAカードの作業である。

図1 フォトエッセイをもとに「心の声」や「価値」を導く
図1 フォトエッセイをもとに「心の声」や「価値」を導く
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 価値を記入する際には、大きく2つのポイントがある(図2)。まず、抽象度を高くしないようにすること。実は、人の行為の価値を突き詰めていくと、最終的には「安心・安全・幸せになる」といった、非常に単純なものに集約していく。ここまで抽象化してしまっては設計の役に立たない。個々の出来事でユーザーが求めているのは、もっと小さい価値と考えた方が書きやすい。KJ法でカードをまとめるときに抽象度を上げるので、カードに記入する段階では心の声をそのまま表現するぐらいで十分である。

図2 抽象化のレベルなどに注意
図2 抽象化のレベルなどに注意
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 もう一つは、テーマから外れた価値にしないことである。例えば、前回紹介した「健康を気遣う」というテーマでフォトエッセイ書いてもらった時に、「ポイントがたまるから、ヨーグルトばかり食べる」という出来事に対して、「ポイントがたまってノベルティーがもらえる価値」などとする人がいるが、これはテーマから外れている。テーマから考えると、例えば「ノベルティーがモチベーションとなって継続できる価値」と解釈すべきである。