この記事は日経Robotics 有料購読者向けの過去記事(2017年)の再掲載です
本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

 2017年2月、ロボット利用などの安全を司る官庁である厚生労働省が、あるマニュアルを公開した。

 あまり知られておらず、まるでひっそりと公開されたかのようだが、合計400ページ以上からなる壮大なもので、実は非常に重要な内容を含む。ロボットに携わる人々であれば、ユーザーなのかシステムインテグレーター(SIer)なのかを問わず、安全性確保の上で必ず目を通すべき文献である。

 厚労省が公開したのは「機能安全活用実践マニュアル」という文書だ(図1)1)。安全確保のためのリスクアセスメントの徹底を求めた内容である。ロボットメーカーなどの技術者であれば機能安全(functional safety)は既に馴染みのある概念であり、読者の中には「何をいまさら」と思う向きもあるかもしれない。

図1 機能安全指針のマニュアルを公開
図1 機能安全指針のマニュアルを公開
厚生労働省は、産業用ロボットの協働運転などに向けて、機能安全に関するマニュアルを作成し公開した。同省からの委託で中央労働災害防止協会(中災防)が作成した。
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 しかし、ロボットを使う立場のユーザー企業や、ハンドなどロボットを用いたシステム一式を構築するSIerの間では、機能安全を含めたリスクアセスメントは認知されているとはいえない。

 その現状に危機感を覚えた厚労省やロボット安全の専門家らが、そのテコ入れと啓蒙のために立ち上がり作成したのがこのマニュアルである。

 リスクアセスメントや機能安全が何かを既に熟知したロボットメーカー向けではなく、ユーザーとSIer向けである点が最大のポイントだ。最近注目を集める協働ロボットを利用しようとする現場では、特に深く関連する文書である。