ただし、多くの人が「人工知能」と聞いてイメージする、高度な知性を達成できたわけではない。また、ビッグデータの分析や自動運転には、ブラックボックスになりがちなDNNよりも、従来の機械学習手法や、ルールベースのAIの方が向くとの意見もある(関連記事)。これらが優位になれば、深層学習向けとは別のアーキテクチャーや既存のマイクロプロセッサーの方が実行に適する可能性がある。

新方式や脳型チップも影響

 現在の深層学習のアルゴリズムが大きく変わる可能性もある。高度な知性を実現するには既存の深層学習の枠組みを超える必要があるかもしれない。米Numenta社は、より人の大脳皮質の動作に近いアルゴリズムを開発することが高度な能力への近道と見る(関連記事)。最近発表した論文では、時系列データの予測で、同社のアルゴリズムは既存のDNN技術よりも高い精度を実現できると主張した(関連記事)。ほかにも米Google社傘下の英DeepMind社は、DNNと外部記憶を組み合わせることが重要とみなして研究開発を進めている(発表資料)。

 現行の深層学習用チップのアーキテクチャー自体が最適かどうかも分からない。さらに高い処理性能や大幅な低電力化を実現できる脳型チップの実用化も迫っている。TrueNorthで先行した米IBM社は、米Lawrence Livermore National Laboratory、米Air Force Research Laboratory、米Army Research Laboratoryなどと協力して用途の開拓を進めている(関連ブログ)。

 ただし、脳型チップは現在の深層学習チップよりも汎用性が低いため、普及するにはかなりの時間を要しそうだ。実際、9月に東京大学と脳型チップの研究で手を組んだNECは(関連記事)、12月に開催した研究開発の説明会(関連記事)で、脳の知覚機能を模倣したチップの実現時期を2022年と説明していた。こうした脳型チップの研究開発の現状は、日経エレクトロニクス2月号で解説する予定である。

NECは脳型チップのロードマップを示した
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NECは脳型チップのロードマップを示した

 AIチップをめぐる状況は、1年前には想像できなかった勢いで進展している。専用チップを開発する大手企業すら初めて聞くベンチャーが、水面下から突如登場してくる状況だ。2017年には、さらなる競争の過熱も予想される。日経テクノロジーオンラインは、引き続きこの分野に注目していきます。