今回と次回(第5回)、次々回(第6回)の3回にわたり、設計品質(以下、品質)に関する是正について述べていきます。本連載のテーマにはビッグデータ活用という視点があるので、品質問題の是正に向けた取り組みに加えて、その中でどのようなデータを収集・活用していくべきか、についても紹介します。
品質を「工程」と「構造」で作り込む
だいぶ以前から、「品質を工程で作り込む」というコンセプトが提唱されてきました。自身の担当する工程の後工程を「お客様」と位置付け、お客様(後工程)に迷惑をかけてはいけない、自工程でやるべきことをしっかりとやり切らなければならない(自工程完結)という思想のもと、各工程でできる限り品質を高めていくという考え方です。この重要性は今も以前と変わっておらず、品質の作り込みを図る上で、最も基礎となる考え方といえるでしょう。
昨今はこれと並行して、「品質を構造で作り込む」ことが重要になってきています。製品の仕様や機能が多様化・複雑化するほど、それを実現するユニットや部品(エレキ、メカ、ソフト全てを含む)の構成・構造や設計も複雑化・大規模化する一方です。流用設計や部品標準化、設計自動化などの取り組みが進んできているとはいえ、まだまだ人手による設計が多く残っている状況です。
人手による設計においては、設計する内容が大量かつ複雑であるほどミスを引き起こしやすくなるため、複雑な構成・構造をできる限りシンプルにしていくことが重要です。特にソフトウエア設計は複雑化・大規模化が顕著で、いかに構造をシンプル化できるかが品質を大きく左右します。このようなことから、従来提唱されてきた「品質を工程で作り込む」だけではなく、『品質を「工程」と「構造」で作り込む』ことが重要になっているといえるでしょう。そして、構造がシンプルになる(品質を構造で作り込む)ほど、品質を工程で作り込みやすくなるといった効果も出てきます。
本連載の第1回で「是正」の定義を述べましたが、ここで改めて振り返っておきます。是正とは、「検出された不適合(品質問題)またはその他の検出された望ましくない状況の原因を除去するための処置」を指します。つまり、品質問題を是正するということは、発生した品質問題の根本的な原因を究明して、その原因を取り除くための対策を打っていくことになります。こうした原因の究明や対策を検討する際に、先ほど述べた「工程」と「構造」という2つの側面からアプローチしていきます。品質問題を「工程」と「構造」の側面からアプローチするとは、具体的には以下のことを掘り下げていくことです。
1. 品質が工程で作り込めていない部分はどこか?(品質の作り込みが弱い工程はどこか?)
2. 品質が構造で作り込めていない部分はどこか?(どの構造が品質の作り込みとして弱い部分か?)
今回と次回、次々回の3回にわたって、この2つの側面に関する分析方法を紹介します。まずは、品質の作り込みを検討していく上で最も基本となる「工程分析」から述べていきます。