前回の図1、2からは、1F-2~3の格納容器の「平均温度」は、180℃以下であることが分かる。格納容器本体には損傷がないため、その温度条件内であれば、問題視されるような放出放射能量にはならないはずである。ところが、実際には大量の放出放射能量が観測されている。東京電力の報告書を吟味してみると、その不整合の主因は公開された「温度」の信頼性にあると考えられる。

3.3 格納容器温度と放出放射能量の不整合

 1979年のスリーマイル島炉心損傷事故後、日米の原子炉メーカーでは、格納容器の苛酷炉心損傷事故時の圧力(設計圧の2倍)・耐熱試験(電気ペネトレーション部エポキシ樹脂部、格納容器上蓋・大型機器搬出入口・パーソナルアロックのシリコンゴムパッキン部)が実施された。その試験結果によれば、200℃まで健全性が維持されることが確認されている。

 日本では、上記試験と独立して通商産業省(当時)管轄の原子力工学試験センターで、格納容器上蓋シリコンゴムパッキンの耐熱試験が実施され、シリコンゴムパッキンについては230℃まで健全性が維持されることが確認されている。ちなみに、シリコンゴムパッキンについては、メーカーのHPによれば、短時間なら300℃まで問題なく使用できるとされている*1

*1 この段落の事実関係は、2016年8月6日の中部電力との私信による。

 1F-1に対する同2~3の炉心放射能量の比は、電気出力が原子炉熱出力に比例すると考えれば、表1から78.4 / 46.0=約1.7となる。1F-1~3の格納容器温度が、230℃以上のある温度で同じで、溶融条件が同じならば、放出放射能量もその比になるはずである。ところが、漏洩しやすいヨウ素131に着目すれば、1F-2~3の1F-1に対する放出放射能量の比は、表2から100 / 3=33となり1桁も大きい。

 次に、1F-1~3の放射能放出時の格納容器温度と格納容器圧力をみてみると、1F-1が約540℃・6.5気圧ゲージ、同2が約170℃・6.5気圧ゲージ、同3が約170℃・1気圧ゲージであり、温度と圧力と放出放射能量の間に、正の相関関係は認められない。それどころか、1F-2、3については上記の日米による試験結果から確認された“健全性が維持される温度範囲内”に留まっている。温度と圧力と放出放射能量の間に正の相関が成立するには、1F-1の温度がもっと低く、1F-2と1F-3のそれがもっと高くなければならない。現状は計算推定値である温度情報の正しさに疑義が生じる。