今回から、本題のアンテナ設計について、3回に分けて説明する。まず、効率の高い(放射抵抗が高い)アンテナの設計について説明する。続けて、代表的な小形アンテナであるチップアンテナの設計について解説する。なお、本連載では、アンテナを電波の放射素子として捉えて、その寸法の大小を表現するときには「大形」「小形」という表記を用いる。(本誌)
アンテナ設計の基本的な考え方は、アンテナの長さを短く、または長くして、アンテナを目的の周波数に共振させることにより、アンテナの放射において損失を起こすリアクタンス成分をゼロにすることである注1)。アンテナは長さを調節するだけで共振状態にできる。
リアクタンス成分をゼロにする
アンテナを使いたいときは、使いたい周波数に共振させれば、放射は強くなる。このとき、アンテナのリアクタンス成分はゼロになる。ダイポールアンテナの長さが1/2波長のとき、共振状態になり、インピーダンスは抵抗成分だけになり、リアクタンス成分はなくなる。なお、実際のダイポールアンテナは放射素子に太さや長さがあるので、若干の誘導性リアクタンス成分が存在する。実際のダイポールアンテナは、それを打ち消すために1/2波長の長さより少し短くするが、ここでは原理を説明するので、1/2波長の長さを共振状態として、以下に説明する。
ダイポールアンテナが1/2波長より長いときは、リアクタンス成分として抵抗成分Rにインダクタンス成分(コイル成分)Lが直列に接続されている等価回路になる。一方、アンテナが1/2波長より短いときは、抵抗成分Rにキャパシタンス成分(コンデンサー成分)Cが直列に接続されている等価回路になる(図1)。
しかし、近年のウエアラブル機器のように、市場のニーズとして、アンテナを腕時計のような小さいケースに押し込まないといけない場合は、アンテナを短くすると、キャパシタンス成分が見えてくるので、放射効率が低くなる。このようなときは、小さなコイル(インダクタンス成分)をアンテナ素子に直列に付加してキャパシタンス成分を相殺し、リアクタンス成分をゼロにする。
アンテナは「長ければ長いほど電波がよく飛ぶ」と言う人もいるが、それは誤解を生む表現かもしれない。ダイポールアンテナを考える場合は、1/2波長の長さのときに電波が最も飛ぶ。アンテナが1/2波長より長くなると、放射素子(エレメント)の両端に逆相の電流分布が生じて、放射がキャンセルされる部分が出てくるので、その分だけ放射が弱くなる。なお、アンテナが短い場合は、放射素子上の電流分布が、1/2波長の余弦状の両端の放射する部分がなくなってしまうので、同様に放射が弱くなる。
アンテナの抵抗成分が大きいほど、放射効率は高くなるが、一般的にアンテナを小形化すると抵抗成分は小さくなってしまう。
1/2波長ダイポールアンテナの絶対利得は+2.14dBiあり、そのときの放射抵抗は73Ωである。アンテナに接続する電子回路のインピーダンスが73Ωより高い場合、インピーダンス変換回路をアンテナ給電点に設ける方法もあるが、以下にアンテナ自体の給電点のインピーダンス(抵抗成分)を高める方法を紹介する注2)。それは、1/2波長ダイポールアンテナの端を折り返すと実現できる。図2に示す1/2波長のダイポールアンテナの抵抗成分は73Ωである。この片方に折り返しを付けると、抵抗成分は2倍の146Ωになる。両方に折り返しを付けると、抵抗成分は4倍の292Ωになる。ただし、この抵抗成分は、放射抵抗の概念とは異なり、アンテナの利得が+2.14dBiより高くはならない。