ずっと潜在していた売り入札不足

 確かに、電力需要の伸びも大きかった。全国9エリアの大手電力が当日発表した電力需要予測の合計値の推移をグラフ化すると、過去5年間の中でも今年の6月から7月にかけての伸びは著しい(グラフ3)。今年の梅雨は、西日本や九州北部中心に前線が停滞し、太陽光由来の発電を抑制した。その一方で、気温も高めに推移し、冷房需要の立ち上がりが早かったことが価格上昇の背景にあったことは否めない。

今年の6-7月は需要予測の伸びも大きかった
今年の6-7月は需要予測の伸びも大きかった
グラフ3●全国需要予測の実績推移(出所:日経エネルギーNext電力研究会)
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 しかし、今夏の価格は需要の伸びだけでは説明できない。もう1つの大きな要因は全面自由化以降に恒常化した「売り玉不足」だ。とりわけ今年は6月中旬から7月に入って、ピーク時間帯における売り入札量が極端に減少し、買い入札量を大きく下回るようになった。

 大手電力が市場活性化に貢献するとして、余剰電源を市場に投入する「自主的取組」を2013年3月に始めてから、市場では売り入札量が買い入札量を常に大きく上回ってきた。この傾向が2016年4月の全面自由化を契機に逆転した。

全面自由化以降、昼間のピーク時間帯は売り玉不足が顕著に
全面自由化以降、昼間のピーク時間帯は売り玉不足が顕著に
グラフ4●売買入札量の推移(出所:日経エネルギーNext電力研究会)
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 電力自由化の推進は、地域独占時代に発電設備を建設した大手電力が市場に電力を供出することから始まる。これは、自由化を進めた国は例外なくとった措置で、独占時代の電源開放なくして自由化はない。

 そして、本来なら余裕があるはずの電力が全面自由化以降、市場に十分に出てこなくなった問題は、このコラムでもしばしば指摘してきた。詳しくは、「油断禁物、電力市場波乱の兆し」「自由化1年目の電力市場、東電による2大事件」を参照して欲しい。

 要因としては、新電力に需要を奪われた大手電力がその分の市場投入を増やさず、電源を停止させてしまう「バランス停止火力問題」や東京電力グループによる「予備力二重計上問題」などが挙げられる。東電グループの場合、「自主的取組」のルールに背いて限界費用(燃料費相当)より高値で売り札を入れていた問題も明らかになっている。