電力需給の構造的な変化が密かに進行している。4月以降、日本卸電力取引所(JEPX)の市場価格は安値で安定しているものの、この安値に慣れ切ってしまうのは危険だ。夏場の需要ピークに天候不順などが重なると、不意に「構造的変化」が顕在化し、電力相場は荒れる恐れがある。

 4月からここまで、卸電力市場は比較的安値で安定した状態が続いている。昨年12月からこの3月にかけての異常と言える高値は何だったのかと首をかしげる市場関係者も多いのではないか。しかし、つぶさに見れば、市場関係者を震撼させるような電力需給の変化が、今も安値安定の影に隠れて進行している。この夏、市場は荒れても不思議はない。

 冬の高値については、特殊要因による一時的なものという見方もある。未確認だが、原子力発電の再稼働の見込みが狂った西日本の大手電力が、それを補うためにスポットで高値のLNG(液化天然ガス)を調達せざるを得なかったうえ、卸電力市場においては買い手に回ったことが市場の高値につながったというのが1つの説だ。

太陽光発電の増加が卸電力価格を下押し

 要因がそれだけならば、高値は一時的かもしれない。しかし、見落としてはならないのが構造的な変化だ。

 前回、このコラムでは「停止火力残高」が増えていることなどを挙げ、市場に投入される電源が減少していく「売り玉不足」が起きているのではないかと指摘した(「電力は余っているのに、なぜ市場価格は高い?」)。背景として大手電力の自社需要の減少(顧客の離脱)が引き金になっている可能性についても触れた。今回は、今後の卸電力価格をどう見通すかの観点からさらに深掘りしておきたい。

 このところの安値は太陽光発電の影響が大きいと見ている。5月は、東日本の日本海側や西日本で降水量が少なく、日照時間がかなり長くなった。月間降水量は東海地方で平年の49%、中国地方が30%と、それぞれ統計を取り始めた1946年以降、5月では最も少ない降水量だった。太陽光で発電した電気が西日本を中心にエリアの電力需要を吸収し、さらに余った電力が供給力としてJEPXに投入されたため、価格も低下した。

 とりわけ、太陽光発電が豊富な九州エリアでは、昼間に4円/kWh以下を付けた時間帯が出るなど電力価格は歴史的な低水準にまで下がった。

九州は歴史的安値
九州は歴史的安値
関西・九州エリアの価格推移[日中時間帯](出所:日経エネルギーNext電力研究会)
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