戦後、日本の製造業は品質を重視する経営を推進し、高いグローバル競争力を実現して飛躍してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを一貫して支えてきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。日科技連では、全国の企業・組織が品質(クオリティ)に関する事例発表を行う「クオリティフォーラム」(2016年11月21、22日)を開催する。日経テクノロジーオンラインは、同フォーラムの開催に先立ち、主要セッションの登壇者や、パネル討論のコーディネーターへのインタビュー記事を連載する。今回は、コマツでの人材育成を担っているコマツウェイ総合研修センタ所長の佐藤真人氏のインタビューをお届けする。(聞き手は吉田 勝、中山 力、山崎良兵)

(前回はこちら)

――コマツウェイ自体はぶれることなく、しつこいほど教育していくということでした。しかし、一方で時代によって人も環境も変わっていく面があると思います。

コマツウェイ総合研修センタ所長 佐藤真人氏
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コマツウェイ総合研修センタ所長 佐藤真人氏
さとう・まこと:1983年、コマツに入社し小山工場生産技術部に所属。コマツカミンズエンジン製造部製造課長、カミンズコマツエンジン(米国)副社長を経て、2004年にコマツのエンジン・油機事業本部小山工場 改革室長 兼購買部長に就任。その後、エンジン油機事業本部企画室長、中国・小松山推建機公司副総経理兼TQM推進室長を経て、2014年4月からコマツウェイ総合研修センタ所長。 写真:栗原克巳

 確かに、その点は随時変化しています。実はコマツウェイにも追加や見直しはあります。現在のコマツウェイは、大きく[1]マネジメント編、[2]ものづくり編、[3]ブランドマネジメント編の3つから構成されています。マネジメント編は、もともと当時の坂根社長(現相談役の坂根正弘氏)が、次の野路社長(現取締役会長の野路國夫氏)にマネジメントの視点を引き継ぐために書いたものです。いかに取締役会を活性化し、コンプライアンスを守っていくかといったことが主題となっています。

 [2]のものづくり編はコマツウェイの中核とも言うべきもので、当時の坂根社長が次の野路社長に策定を任せました。ものづくりの視点で、品質を高め・確保するにはどういう考え方をすべきか、といったことを経験的に書き綴っています。

 2006年に作られたコマツウェイですが、2011年に第2版に改訂されました。その一番大きな変更が、[3]のブランドマネジメント編の追加です。建機はお客様とのコミュニケーションが非常に重要です。例えば、建機が使われる時間は、クルマの4~5倍にもなります。鉱山機械ではさらに10倍ともいわれています。そのため、新品購入時のコストよりもメンテナンスの部品交換コストの方が大きくなるくらいです。

 そんな製品ですから、どうやってお客様にコマツを選んでもらうかが大切なのです。そのためには、お客様とのコミュニケーションを進化させなければなりません。そういう背景があって、営業部門の教育としてブランドマネジメントを付け加えたのです。

”蕎麦屋の出前”を直訳しても

――海外と日本とで変えている点はありますか。

 考え方の中核は変えていません。ただし、中核は同じでも、理解を深めてもらうために、海外では事例集を充実させるとともに、表現なども現地の人が理解できるよう工夫しています。

 例えば、物事の遅延したときのいいかげんな言い訳を、日本語では「蕎麦屋の出前」などと言いますよね。これを「Noodle Shop Delivery」などと直訳しても海外の従業員には伝わりません。きちんと意図が伝わる表現にする必要があります。

 かくいう海外でコマツウェイを展開する上では、現地の人が納得できる内容に書き換えた上で、細かく説明しながら伝えているのです。事例についても、日本の事例だけでなくて海外の事例を盛り込んで理解してもらうようにしました。

 今は、国や地域ごとにコマツウェイの冊子を作ろうとしていて、インストラクターを介してそれを広げていくつもりです。英語版は作成したので、今後はスペイン語など他の言語も作成していきます。