今回は、シャツ専業メーカーとして業績を伸ばし続けているメーカーズシャツ鎌倉(以下、鎌倉シャツ)の最終回をお届けします。前回に引き続き*1、鎌倉シャツの商品企画や製造を担当するグループ会社のサダ・マーチャンダイジングリプリゼンタティブ(SMR)で生産企画を務める佐野貴宏氏へのインタビューをお届けします。

 第2回で紹介した「メード・イン・ジャパン」へのこだわりに始まり*2、ニューヨークでの評判から社内での業務体制にまで話が広がりました。(以下、聞き手は筆者)

(写真:稲垣 純也)
(写真:稲垣 純也)
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メード・イン・ジャパンにこだわる理由

―― 鎌倉シャツでは日本製にこだわって、商品を国内の縫製工場で生産しています。そうした「少しずつ変えて、シャツを良くしていく」という細やかな改良は、日本国内で生産する大きな理由になっているのでしょうか。

佐野 日本でシャツを作っている理由の半分近くは、それが理由です。海外で商品を作るには、大きなロット数と時間が必要になります。

 もちろん、少ないロット数でも作ってもらえる海外の縫製工場はあります。ですが慣れないものを少ない数で作るとシャツの品質が安定しないんです。加えて、ロット数が少ない商品に物流費をかけて日本に持ってきても、トータルコストを考えると、なぜ海外で作っているのかが分からない状態になります。例えば、5000枚のシャツを急いで作らなければならない状態で、「シャツのこの部分を少しだけ調整して欲しい」と急に頼んでも対応できません。

―― 高級ブランドでも東南アジアや中国で作っているところがたくさんあるので、もしかすると品質だけを考えたらクリアできるかもしれない。でも、品質に加えて、細やかな対応をしてもらったり、ブランドのイメージに合致させたりする意味で日本製にこだわっているわけですね。

佐野 今や、繊維製品も食品と同じように国内自給率が低く、9割以上は海外からの輸入です。国内の縫製工場は、技術を持っている残るべきところしか残っていません。最近、いろいろな業界で「メード・イン・ジャパンへの回帰」ということが言われていますが、現実として縫製関連ではほとんど工場は残っていない。その点には危機感を感じます。

 それでも、最近では、東南アジアでのものづくりの仕組みや、工賃体系を日本の縫製工場に持ち込むところもあります。それを日本の縫製工場でやっても意味はありません。単純に日本で作っているからではなく、手間をかけて作っているからこそ「メード・イン・ジャパン」です。「メード・イン・ジャパン」の価値を見出せる人たちが作って、その価値を分かってくれる人たちに届けるからこそ意味があります。

 「円安になり、原料の価格が上がって海外で作る意味がないから日本で作った方がいい」という論理で戻ってきても、「メード・イン・ジャパン」という言葉ばかりが上滑りして、単に荒れてしまうだけです。誰もハッピーにならない。鎌倉シャツは、「メード・イン・ジャパン」を冠にして20年以上もシャツを国内で作り続けています。そこには、縫製工場をはじめとする関連企業との共存共栄でやりたいという強い意思があります。日本の縫製工場がもっと注目を浴びてほしい。

―― 品質面でも、日本と海外の縫製工場には違いがあるのでしょうか。