昔、とある半導体分野のベンチャーを取材していて、驚いたことがあります。通常、登記簿といえば10ページ程度のものが多いかと思いますが、その企業の登記簿はなんと数百ページ以上もあったのです。

 知り合いのベンチャーキャピタリストに聞いても「数百ページもある登記簿なんて聞いたことがない」との言。

 ページ数が膨らんでいる要因は、その企業が抱えた転換社債でした。投入した新製品が不振で開発費を回収できず、通常の資金調達ができなくなった末に、既存株主であった海外のベンチャーキャピタルの主導で多額の転換社債を複数本、組んだのでした。登記簿のページ数が膨らんでいたのは、この転換社債の詳細な条件をつぶさに記載していたためでした。

 転換社債はあくまで負債(借金)の一種ですから、経営不振に陥ったベンチャーがキチンとした経営打開策もなしにこうした資金調達を行えば、一時しのぎにはなっても、さらに自らの首を絞めることとなります。案の定、そのベンチャーは、転換社債を組んだ後、ほどなくして、債務超過に陥り、倒産するに至りました。厳密には、開発されたIPなどは、破産管財人の元、入札に掛けられ、日本の大手企業に売却されましたが…。

 さて、筆者は技術雑誌の記者なので、登記簿ばかり見ている訳ではなく、普段は技術動向を追いかけているのですが、先日、久々にこの「転換社債」という言葉を取材の場で聞きました。

 筆者は現在、ロボット専門誌「日経Robotics」の編集長をしているのですが、Pepperの元開発者である林要氏が創業したロボットベンチャーGROOVE Xにお話をうかがう機会があり、そこで出てきたのです。倒産という後ろ向きな話題ではなく、「日本においてベンチャー企業を継続的に生み出す仕組みはどうあるべきか」という非常に前向きなお話です。

 具体的にはGROOVE Xへの取材のテーマは、ベンチャー企業向けの新しい資金調達手法「コンバーティブルエクイティ(convertible equity)」でした。シリコンバレーで数年前から普及しはじめた資金調達手法で、日本国内ではまだ数件ほどしか実施例がありません。GROOVE Xは創業以来、2回の資金調達で、このコンバーティブルエクイティを先駆的に使ったのです。

 コンバーティブルエクイティは、「コンバーティブル」という名称から想像できるように、「将来的に株式に転換できる」という性質のものです。前述した転換社債も同様に「将来的に株式に転換できる社債」でして、負債であるという違いはあるとはいえ、コンバーティブルエクイティと似た面があり、その流れでGROOVE Xへの取材で「転換社債」という言葉が出てきたのでした。

 では、その「コンバーティブルエクイティ」とは何なのか、という点については、日経Robotics2016年12月号の記事にてGROOVE X創業者の林氏への取材を基に解説いたしました。

 この機会に日経Roboticsをご購読の上、ぜひご高覧いただければ幸いです。