以前、このコラムで、新しい安全の概念「Safety 2.0」を簡単に紹介しました。現在は、そのSafety 2.0を柱にした研究会事業や人材育成事業などの立ち上げに奔走しています。そんな中、最近感じ始めているのは、「製造業の安全は広く他分野に展開していけるのではないか…」ということです。

 Safety 2.0では、KY(危険予知)やヒヤリハット、指差し確認といった訓練によって人の注意力や判断力を磨き、安全を確保する取り組みを「Safety 0.0」とし、「人はミスを犯す」「機械は故障する」ことを前提に、機械やシステムなどのモノに対してフェールセーフなどの安全方策を施す取り組みを「Safety 1.0」と定義しています。そしてさらに、人、モノ、環境などを情報でつないでリスク関連情報をモニタリングし、それを受けて自律的、あるいは他律的な制御によって安全を確保するのがSafety 2.0で、これを実現すれば、安全性だけではなく、生産性向上やコスト低減などが同時に図れるとして現在普及に努めています。

 この呼び方にならうと、製造業の安全のレベルは、徹底したSafety 0.0をベースに、進んでいる企業ではSafety 1.0を導入しています。とりわけ製造業の雄、トヨタ自動車の安全対策は目を見張るものがあります。私が、Safety 1.0の考え方のベースとなる国際安全規格の取材をしていた1990年代当時、同社では既に社内規格として国際安全規格とほぼ同じ構成の安全規格体系を構築していました。つまり国際安全規格が発効する前から、Safety 1.0の考え方を取り入れていたのです。

 トヨタ自動車はともかくとしても、製造業の現場の多くでは、人と機械を時間的あるいは空間的に分離するなどの安全対策が大なり小なり採られています。しかし製造業から一歩外に踏み出してみると、このような考え方はまだあまり浸透していません。