事前の大会では得意戦略隠す

 結果的に、ボッチャの日本代表チームは混合団体(脳性まひ)で銀メダルを獲得することができました。アナリティクスの観点からメダル獲得の要因を考えると、情報戦を制することができたのが大きかったと感じています。

 本番に向けて他国のデータを集めると同時に、日本の戦術についてもデータを集め、日本の得意な戦術を検討していきました。さらに、パラリンピック本番前に行われた国際大会ではあえて日本の得意戦術を隠し、別の戦術で戦いました。そして、パラリンピック本番で得意戦術を解禁。当然、他国はその戦術についてのデータは持っていませんから、混乱した状態で戦うことになり、日本は有利な展開で大会を勝ち進むことができたのです。

選手のレベルアップはもちろんのこと、効果的なトレーニング、そして複数大会を使った情報戦に成功したことが銀メダルの要因になったと渋谷氏
選手のレベルアップはもちろんのこと、効果的なトレーニング、そして複数大会を使った情報戦に成功したことが銀メダルの要因になったと渋谷氏

オリンピックで効果的な手法、必ずしも流用できず

 今回パラリンピックに帯同したことで、パラリンピアンをサポートするにあたって注意すべきことや、オリンピック競技との違いを実感しました。例えばコミュニケーションの面。選手に情報を伝えるとき、具体的に伝えるのではなく、あえて抽象的に伝えた方が素早い理解につながることがあります。

 また、同一の競技であっても選手の視点は異なります。さらに、介助者やガイドの存在が勝敗を左右する競技もあります。選手や指導者だけでなく、彼らにもしっかりとアプローチし、正確に情報を伝えることが重要なことを実感しました。

 機材においてもオリンピックとパラリンピックで違いがあると前回述べましたが、選手たちへのアプローチ手法においても異なる点は多くあります。データの扱い方や、それの使い方など、オリンピックでは効果的であっても、そっくりそのままパラリンピックにも生かせるわけではないのです。

クラス分けなどルール的な違い、選手の視点の違いなどによって、「オリンピックで生かせるものが100%パラリンピックにも生かせるわけではない」と渋谷氏
クラス分けなどルール的な違い、選手の視点の違いなどによって、「オリンピックで生かせるものが100%パラリンピックにも生かせるわけではない」と渋谷氏

強化の鍵は「スタッフ間の連携強化」

 では最後に、これからのパラリンピック競技のサポートについてお話をします。

 かつては、我々サポートスタッフが土台となり、指導者の方々が選手に技術を伝える、ピラミッド的な構造でアスリートは強化されていくものだと考えていました。しかし、パラリンピックの場合、その他にガイドや介助者の人々もアスリートに関わることになりますので、サポートスタッフ間の連携はオリンピック競技よりも重要性が増します。そのため、指導者、ガイド、介助者、そしてサポートスタッフが常にリンクし合うことで、初めてアスリートの強化を果たすことができます。

 もちろん、オリンピック競技でもスタッフの重要性はどんどん高まっていますし、実際、団体競技などではこうした連携を当たり前にできているものもあります。ただ、パラリンピック競技の場合はまだまだ十分ではありません。これからパラリンピアンを強化していくために、いかにスタッフ間の連携を密に取れるかが鍵になってくると考えています。