用語解説

 有機半導体を使ったp-n接合型の太陽電池のこと。つまり,n型とp型の有機半導体を使って,pn接合のバンドギャップに光が当たることで電位差が生まれる現象を利用している。色素増感型太陽電池が,ヨウ素を介した酸化還元反応の現象を利用しているのに対し,シリコン系太陽電池に原理的には近い。特徴は,材料と製造コストが安く,プラスチック基板を用いればフレキシブル太陽電池を作ることができることなどである。

 有機薄膜太陽電池に使われる有機半導体には高分子系と低分子系があり,製膜方法としては蒸着法と塗布法がある。このうち,特に有望視されているのが,高分子系などを使った塗布法である。シリコン半導体では蒸着法が用いられてきたがコストやプロセス時間の面で問題がある。塗布型ならば,ロール・ツー・ロール法などの大量生産方式が採用できて,コスト面でもプロセス時間面でも有利になる。

国内でも研究が活発化

 こうしたメリットから,近年塗布型の高分子系有機半導体を用いた有機薄膜太陽電池の研究開発が活発化してきた。これまでは海外が研究の中心であったが,ここ2~3年で国内でも研究が盛んになってきた。例えば,産業技術総合研究所は,高分子系の有機半導体を使った有機薄膜太陽電池を試作し,エネルギー変換効率が3.8%となったと発表している。

 また,三菱化学と「ERATO中村活性炭素クラスタープロジェクト」は共同で,p型有機半導体としてテトラベンゾポルフィリンを用い,n型半導体としてフラーレン誘導体を組み合わせた塗布変換型の有機薄膜太陽電池を開発した。テトラベンゾポルフィリンはその前駆体が溶媒に可溶でインク化でき,塗布後加熱することにより,半導体特性を有するものに構造変換する。テトラベンゾポルフィリン前駆体とフラーレン誘導体を用いて低分子蒸着とも高分子塗布とも異なる世界初の塗布変換型有機薄膜太陽電池を実現した。

供給・開発状況
2009/05/21

変換効率向上の研究成果が続々

 有機薄膜太陽電池の変換効率を上げる試みも世界各国に研究機関で活発に行われている。2007年7月には米California大学が「6.5%と世界最高のセル変換効率を達成した」と科学誌「Science」に発表した。日本勢でも2009年2月に住友化学が,変換効率6.5%を得たことを明らかにしている。

 東レは変換効率5.5%を達成した,と2009年3月に開催された春季応用物理学関係連合講演会で発表した。ポイントは,ドナー材料に,アクセプター材料とのエネルギ差を高める構造をポリマー骨格に導入することで,約1Vの高い開放電圧を実現し,加えて,最適な発電層構造の形成を可能にする置換基を導入して,短絡電流と電圧を高いレベルで両立させたことだという。2015年ころまでに変換効率7%を目指すとしている。

図1 ロール・ツー・ロール方式で製造した有機薄膜太陽電池モジュール(Konarka社)
図1 ロール・ツー・ロール方式で製造した有機薄膜太陽電池モジュール(Konarka社)

米国では量産が始まる

 米国では量産に向けた取り組みが始まっている。米国Konarka Technologies社は,厚さが100μmと薄いフィルム基板を用いた有機薄膜太陽電池モジュール「Power Plastic」の量産を2008年に開始したと見られる。製造はロール・ツー・ロールやインクジェットによる印刷技術を用いる。同社は太陽電池モジュールを単体で売る予定はなく,応用製品そのものを販売する予定という。変換効率については,現時点ではセル変換効率で4~5%とまだ低いが「近い将来7%を達成できる見込み。数年以内に10%の実現を目指している」としている。

図2 有機薄膜太陽電池を貼り付けたカバンの試作例(Konarka社)
図2 有機薄膜太陽電池を貼り付けたカバンの試作例(Konarka社)

 同社は,ロール・ツー・ロールで製造した有機薄膜太陽電池モジュール各種を2009年2月に日本で開かれた「PV EXPO 2009 第2回国際太陽電池展」に出展した(図1)。フレキシブル であることを生かしてカバンに実装したり(図2),電子ペーパーの電源として利用する試作品を展示した。

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