改訂版EDA用語辞典とは・著者一覧

 標準化とは業務や製品において,仕様や構造,形式を同じものに統一することを言う。標準化の目的は,互換性・インタフェースの整合性の確保や,生産効率の向上,製品の適切な品質の設定,相互理解の促進などである。さらに近年は,技術の普及や,安全・安心の確保,省エネルギー・リサイクルなどの環境対応,産業競争力の強化や競争環境の整備,貿易促進なども,標準化の重要な目的となってきた。

三つに分類可能

 一口に標準と言っても,次のような3種類がある。

(1)デファクト標準(de facto standard):「de facto」は仏語で「事実上の」の意味である。法的根拠はないが,市場での競争力で勝ち抜いた標準を意味する。

(2)デジュール標準(de jure standard):「de jure」は仏語で「適法な」,「法律上の」という意味である。公的な標準をいう。公的機関で明文化され公開された手続きによって作成された標準である。

(3)フォーラム標準:関心のある企業などが集まって結成した「フォーラム」が中心となって作成された標準である。公的ではないが,デジュール標準のような開かれた標準化手続きを持つ。先端技術分野の標準を策定する場合によく利用される。

国際的な標準

 市場のグローバル化に伴い,標準の中でも,国際標準(global standard)の重要性が上がっている。以下で国際的な標準化を担う機関や団体のうち,電子・電気やEDAに関係の深い機関を紹介する。

公的標準化団体のIEC

 国際的なデジュール標準を決定する組織には,IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会会議)とISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)がある。IECは電気・電子分野の国際規格(約5600)を扱い,67の国や地域がメンバーとなっている。ISOは電気・電子分野以外の国際規格(約1万6500)を扱い,157の国や地域が参画している。

 IECの参加国は,P-メンバ(投票権のある参加国)とO-メンバ(オブザーバ)から構成されている。現在のP-メンバは米国,中国,日本,韓国の4カ国である。一方,O-メンバには,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,イタリア,イギリス,オーストラリア,ブラジル,UAE,ハンガリー,アイルランド,オランダ,スウェーデン,スイスなどと,多い。

 IECは分野ごとに100以上の専門委員会(TC)を構成し,国際標準化を進めている。その中で,TC93は,電気系の製品設計,技術,生産および後方支援プロセスの統合化および自動化を可能にし,かつ製品操作・保守のための手続きを促進する標準化を扱う。またTC93の標準化領域には,製品開発のプロセスに直接影響する計算機支援や補完的な活動に用いられる,電気的なハードウェア,および組み込みや制御ソフトウェアのためのコンピュータ用の表現方法等も含まれる。

 TC93委員会には電気・電子設計の分野ごとに,国際標準化を進める七つのワーキング・グループ(WG)がある。

 「WG1」は,電子・電気技術関係の各種標準化データの調和の標準化を扱い,最近は設計記述言語のインタオペラビリティ(interoperability:相互接続技術)などを扱っている。

 「WG2」は,電子機器の設計言語を扱う。IEEE(後述)との「デュアル・ロゴ」により,Verilog HDL,VHDLなどのハードウェア設計記述言語の標準化を進めている。なお,デュアル・ロゴとは,IEEEが標準化した案件については,IECが新規提案からの標準化手続きを省略し,最終投票のみで国際標準化に決めることをいう。IEEEとIECの連携により,迅速に国際標準化を図る。

 「WG3」は,電子機器の開発・生産工程における製品属性情報の記述方式や設計情報交換のための参照モデルの標準化を行っている。

 「WG5」は,使用するソフトウェア,システムなどが標準規格に適合しているのかどうかの検証作業を体系的に進めるための規格,推薦手順,ガイドなどを策定している。

 「WG6」は,電子部品の技術情報(電子カタログ)の記述表現や交換ルールの標準化を行っている。

 「WG7」は,エレクトロニクス・システムのテストの標準化を行っている。

 「JWG11」は電子基板関連の標準化を扱うTC91とのジョイントWGである。電子基板の設計における設計データの記述や設計情報交換のための参照モデルの標準化を進めている。

IEEEとCENELEC

 IEC以外に電気・電子の国際標準化を扱う機関として,「IEEE」と「CENELEC」を挙げられる。IEEEは,米国に本部を置き,世界各国に多数の会員を持つ国際的な学会である。同時に,電気および電子関連の標準化活動を長年にわたり,広範囲に実施している。IEEEでEDA関係の標準化活動を行っている委員会には,「DASC」と「SA」がある。

 DASC(Design Automation Standards Committee)は,IEEE内においてエレクトロニクス産業におけるEDA関連の標準化活動を行っている。また,SA(Standards Association)は,IEEEにおける標準化案件を最終的に決定する委員会であり,1998年に組織された。SAのメンバーは標準化活動を行っている団体及び個人(各分野のエキスパート)であり,投票によって標準案の採否を決定している。

 一方,CENELECは,EC(欧州委員会)内の電気電子分野に関する標準化機関である。最近はEDA関連の案件は扱っていない。

民間ベースの標準化団体

 次に,エレクトロニクス業界内で,民間ベースで標準化を促進している機関や団体を紹介する。上記の公的機関と連携している組織が多い。

(a) Accelera:VI(VHDL International)とOVI(Open Verilog International)という二つの民間ベースの団体が統合して,2000年に設立された。設計記述言語の標準化で,原案の規格を策定してIEEEに提案している。企業単位で,会員になる。

(b)Si2:Silicon Integration Initiativeの略である。EDAベンダーや半導体メーカー,電子機器メーカーなどの企業で構成するコンソーシアムで,半導体の設計手法を改善することや,ツールの統合性を高めることを目的に,活動している。

(c)OSCI:Open SystemC Initiativeの略である。システム・レベルの設計および検証用言語「SystemC」の標準化とその普及を担う。

(d)SPIRIT:2003年に欧州で設立された。2006年に米国の非営利機関「The SPIRIT Consortium Inc.」になった。IP(intellectual property)コアのコンテンツを表記するためのスキーマとデータ・モデルの記述仕様の標準化を進めている。

国内の標準化支援団体

 上述した国際標準化活動を国内で支援する組織を,以下に紹介する。

(i)日本工業標準調査会(Japanese Industrial Standards Committee, JISC):経済産業省に設置されている審議会であり,経済産業省情報電気標準化推進室が事務局となっている。工業標準化法に基づいて,工業標準化に関する調査審議(JISなど)を行う。なおJISCは,日本におけるISOとIECの唯一の会員である。

(ii)日本規格協会:経済産業省の外郭団体の一つとして,国内規格(JIS)の原案作成・管理や,国際標準化に関する補助金の管理および国際標準の推進(国際コーディネーション制度,APC)などを経産省から業務委託されている。

(iii)公的標準化審議団体:JISCはIECのTCごとに,国内の研究団体や業界団体に,国内意見の取りまとめなどの国内審議を委嘱している。EDA分野では,以下の3つの団体がある。

(iii-a)電子情報通信学会(IEICE):電子情報通信学会の規格調査会は,IECの国際標準規格の審議,同調査会標準規格の制定,用語の調査,作成などによる電子工学および情報通信に関する標準化の事業を行っている。IECの国際標準化については,SC3D(図記号),46(ケーブル),49(周波数制御),86(光デバイス),93(DA),103(無線通信)を担当している。

(iii-b)電子情報技術産業協会(JEITA):電子機器や電子部品の業界団体であり,IECの国際標準化については,37(サージ保護),39(電子管),40(コンデンサ,抵抗器),47(半導体),48(機構部品),51(磁性部品),62(医用),87(超音波),91(電子実装),100(AV機器),110(FPD),111(環境)などのTCを担当している。

(iii-c)日本電子回路工業会(JPCA):電子回路基板の製造事業および関連事業の事業者団体である。IECの国際標準化については,TC52(プリント回路)を担当。TC52とTC91の合併以降,TC91内の基板関連および用語のWG,基板回路設計に関連しTC93との共同作業班(TC91/TC93/JWG11)や,光エレクトロニクス基板の標準化につきTC86との共同作業班(TC86/TC91/JWG9)などを担当している。