embeded software

 クルマの電子化が進み,搭載するECU(electronic control unit,電子制御ユニット)の数が増えている。それぞれのECUにはエンジンやブレーキなどを高度に制御するソフトウエアが組み込まれている。また,車載ネットワークを介して複数のECUが連携動作するため,ソフトウエアの要求仕様は複雑になり,テストも困難になってきた。さらに最近のクルマには,ECUだけでなくカーナビやDVDプレーヤなど情報系デバイスの搭載も増えている。ハイブリッド・カーでは,エンジン駆動系と電気駆動系を高度に制御しなくてはならない。

 これらのさまざまな電子機器に搭載される「組み込みソフトウエア」の開発工数はうなぎ上りに増加しており,自動車メーカーや部品メーカーは危機感を強めている(図1)。開発期間や開発コストの増大もさることながら,品質管理が不十分になってクルマの安全性を確保できなくなっては大変だからである。

 組み込みソフトウエアの開発効率を抜本的に高めるために,自動車業界は2つのアプローチを取っている。1つはソフトウエア開発の標準化を推進し,開発工程の合理化を進めること。将来はソフトウエアの流通や再利用を目指す。もう1つはシミュレーション技術や開発ツールを活用して,ソフトウエアの開発プロセスを効率化することである。

クルマのソフトウエア開発量は10年で15倍以上に
図1●クルマのソフトウエア開発量は10年で15倍以上に
クルマに実装するソフトウエアは年々増すばかりである。トヨタ自動車でのソフトウエア開発量は1994年を基準にした場合,ここ10年で15倍以上にもなったという。(資料:トヨタ自動車)

標準化によって再利用を促進

 組み込みソフトウエアの開発は,これまで自動車メーカーや部品メーカーごと,あるいは製品ごとに別々に行われてきた。標準化によってソフトウエアのモジュール化が実現し,流通/再利用が可能になれば,開発の負担は大幅に減る。また,標準化が進めばこれまで困難だった複数のECUの連係も容易になる。標準化は自動車メーカーや部品メーカーをまたがって推進した方が効果的なので,標準化団体が結成されている。

 代表的なものに,欧州の自動車メーカーが中心となって2003年に設立した「AUTOSAR」がある。また,トヨタ自動車や日産自動車など日本の自動車メーカーは2004年に「JasPar」という団体を設立した。ほかに車載LANの標準化団体である「MOST」や「FlexRay」「IDB-1394」などもソフトウエア開発の効率化に向けて活発に活動している。

 これらの標準化団体は,OSやデバイス・ドライバの機能を呼び出すAPI(application programming interface)の標準化や,複数のECUをつなぐ車内LANインタフェースの標準化,ハードウエアとソフトウエアのインタフェースの標準化などを進めている。これにより,アプリケーション・ソフトウエアを開発する場合に,OSなどのミドルウエア以下の違いは気にしなくてすむようになる。また,異なる半導体メーカーの通信用コントローラを使ったECU間でも,問題なく通信ができるようになる。

開発プロセスの改善も進む

 ECUの制御ソフトウエア開発では,モデルベース開発と呼ばれるシミュレーション技術の導入が進んでいる。制御対象となるエンジンやステアリングなどの物理的な挙動を,高性能のコンピュータでシミュレーションするHILS(hardware in-the-loop simulation)などを駆使し,開発工程と検証工程を効率化する手法である。

 一方,自動車メーカーは,各種の組み込みソフトウエアをアウトソーシングしているが,バグを減らすことが開発効率向上とって非常に重要である。トヨタ自動車は出来上がったプログラムを監査するのではなく,アウトソーシング先の開発プロセスの監査を重視する方向に転換し,品質管理の徹底を追求している。「品質を工程で作り込む」というトヨタ生産方式をソフトウエア開発にも適用して成果を上げている。