configurable LCD

 ドライバーが運転中に見なければならない情報が飛躍的に増加している。増え続ける視覚情報を整理し,少ない視線移動で読み取れるようにする対策の柱として,液晶パネルの大面積化と多重表示化が進んでいる。一つのメータに多くの情報を多重表示し,ドライバーがあちこちのディスプレイを確認しなくても済むようにする手法だ。この手法をいち早く採用したのが,日本では2005年10月に発売されたDaimlerChrysler社Mercedes-Benz部門の新型「Sクラス」である。

 新型Sクラスのメータは一見なんの変哲もないアナログ・メータに見える(図1上)。しかし,実は中央の速度計は大型の液晶ディスプレイで,針や文字盤もすべて映像である。速度計の中には,ナビゲーション・システムのルート案内や,オーディオ機能などが表示されるほか,オプション設定のナイトビュー・アシストを搭載した車両では,夜間走行時に赤外線カメラの映像を表示する(図1下)。メータをディスプレイ化することで,これ以外にも様々な種類の情報を,視線を移動させずに表示する可能性が開ける。

新型「Sクラス」のインストルメント・パネル新型「Sクラス」のインストルメント・パネル
図1●新型「Sクラス」のインストルメント・パネル
中央の丸型スピードメータは,実は液晶ディスプレイ。右はナイトビジョンを表示したところ。速度表示は,ディスプレイの下端のバー表示に変わる。

虚像表示や二重可変表示のスイッチ

 カルソニックカンセイが2005年10月に開催された東京モーターショーに出展したコックピットモジュール「シグマ12」も,新型Sクラスと同様にメータを液晶パネルとしたもの(Tech-On!の関連記事)。走行状況に応じて画面を切り替えることで,ドライバーが視線を移動させずに様々な情報を確認できるようにしている。自車両が車線変更する際に,後方から接近する車両があるとその様子が図示され,ドライバーに警告する機能もある。

 新型Sクラスと異なるのは,液晶パネルをメータ・バイザの裏側に取り付け,ドライバーはハーフ・ミラーで反射した虚像を見るようにしたことだ。従来の液晶メータでは,外光の映り込みを避けたり,外界との焦点距離の差を小さくする目的で,液晶パネルをメータのかなり奥に配置する必要があった。虚像を見せるようにしたことでメータの奥行きをコンパクトにまとめることができた。

 シグマ12では,こうした表示の多重化をメータに限らず操作系にも導入している。シフト・レバーの近くに配置したパーキング・ブレーキの操作スイッチや,オーディオ・スイッチを兼用するエアコン・スイッチに採用した二重可変表示技術がそれだ。これは,一つのスイッチで,異なる表示色の異なる文字(あるいは絵柄)を表示させる技術。

 例えばこのコックピット・モジュールでは,サイド・ブレーキをレバーではなくスイッチ操作で行うが,サイド・ブレーキをかけるスイッチと解除するスイッチを二つ用意するのではなく,一つのスイッチで兼用するようになっている。パーキング・ブレーキをかける前は赤い「P」という表示だが,かけた後は緑色の「解除」の表示に切り替わる。

 オーディオ・スイッチでは例えば緑色の表示でカーオーディオの操作に使っていたスイッチを,赤色の表示に切り替えてエアコンの操作スイッチとしても使うことができる。スイッチに赤色と緑色のLEDを内蔵しており,表示色に応じて切り替える仕組みである。

 最近のクルマでは車載エレクトロニクス機器が多機能化し,操作するスイッチも増える一方。二重可変表示技術は限られた数のスイッチで多様な機能を実現することを可能にする。