EPS:electric power steering

 ステアリングのアシストに油圧ではなく電気モータを利用する技術。EPSと呼ばれる。

 燃費が向上し,制御の自由度も高くなるというメリットがある。従来は操舵感が良くないということで,ユーザーの評判は芳しくなかったが,操舵フィールの改良や,燃費に対する要求が高まってきたこと,さらには車両全体の電子制御化が進展していることから,ここにきて急速に普及してきた(図1)。

2008年の世界のEPS市場
図1 2008年の世界のEPS市場
NSKステアリングシステムズが2001年の時点で作成したEPSの出荷台数予測。2004年時点の予測ではさらに増加しており,2008年に2300万~2500万台という。

30~50kgの軽量化に相当

 EPSの最大のメリットは,必要なときだけモータで駆動力をアシストするので,従来の油圧パワー・ステアリングのように常に油圧ポンプを回す必要がなく,燃費を改善できること。メーカーにより数値は若干異なるが,3~5%の燃費改善効果があるようだ。これは車両重量を30~50kgほど削減したのと同等の効果だという。

 そのほかにも,油圧系がないので軽量化できること,工場で車両に組み込む前から動作チェックができ,組み立て時に油圧の配管作業の必要がないこと,エア抜きや油圧調整が要らない,車両を廃棄処分する際にも油を捨てないで済むため環境にもやさしいといったメリットもある。

 一方,電子制御ならではの特徴として,車速に応じてステアリングの操作力を重く,あるいは軽くできるのはもちろんのこと,セッティングを簡単に変更できることが挙げられる。

 また「プリウス」(トヨタ自動車)や「インサイト」(ホンダ)など,主なハイブリッド車はEPSを採用している。ハイブリッド車は走行中やアイドリング中にエンジンを停止するので,その間は油圧をつくれない。そこでEPSが必要になる。

 大型車をEPS化するには車載電源がネックになる。バッテリが14Vのままではモータの出力を大きくできないため,42V電源との組み合わせが前提になるようだ。しかし車載電源の42V化はすぐには実現しそうにない。

 そこで注目されているのが,電動ポンプで油圧をつくり,その油圧でステアリングの操作力をアシストする電動油圧パワー・ステアリング(EHPS:electronic hydraulic power steering,メーカーによってはEPHS,H-EPSと呼ぶ例もある)である。エネルギー消費量は油圧を100%とするとEHPSは25%ほどで,EPS(同じ基準では約15%)ほど減らすことはできないが,既存の12V電源のままで大型車に対応できるというメリットがある。

目指すは自動運転

 EPSは将来の自動運転につながる技術でもある。2003年9月に発売されたトヨタ自動車の新型プリウスは,クルマ自らがステアリングを切って自動的に駐車する機能を盛り込んだ。この縦列駐車や車庫入れを補助する「インテリジェントパーキングアシスト(IPA)」は,プリウスがもともとEPSを装備していたので新たなアクチュエータの追加無しに実現することができた。

 また,プリウスは車両の挙動を安定させる方向にステアリングのアシスト力を変えることもできる。コーナリング中に後輪が滑りだしそうになると,クルマの進行方向とは逆の方向にステアリング補助力を発生させる。逆に前輪が滑りだしそうな場合,ステアリングが重くなる方向に補助力を発生させ,切り過ぎを防ぐ。

 トヨタでは従来のブレーキやスロットルを協調制御する車両安定性制御システムにEPSも統合した機構を開発し「VDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)」として2004年6月に発表し,新型「クラウン マジェスタ」に安全装備として搭載した。