光通信において,光子を用いて鍵データを伝送する暗号技術。個々の光子が持つ偏光や位相といった量子状態に「0」「1」を対応させて,鍵データの情報を載せる。鍵データとデータ本体は,回線そのものを分けたり,同じ回線を使っても時間的に切り替えたり波長多重を利用して,別々に伝送する。

 量子暗号は受信者が鍵データの盗聴の有無を判別できるので「究極の暗号技術」と呼ばれる。観測によって光子の量子状態に変化が生じて盗聴した痕跡が残ってしまうという,量子力学の原理を利用している。実際には,盗聴されると光子の状態に変化が生じて受信時のエラー率が非常に高くなるので,盗聴されていたことが判明する。盗聴が分かれば伝送された秘密鍵を廃棄するといった対処を採ることができる。

 原理的に,鍵データではなく送信データそのものを暗号化することは可能。ただし暗号通信からのビット列の抽出速度は,速くても数100kビット/秒と遅い。光子源の光子の生成効率や,受光するアバランシェ型フォトダイオードの検出可能時間などによる制約が生じるからだ。データ伝送速度が遅いため,鍵データだけを送信する方向で開発が進んでいる。