バイオテクノロジーとナノテクノロジーを融合することによって産み出される新素材のうち,バイオの機能を活用してナノテクノロジーを発展させることにより創成した材料のこと。これに対して,ナノテクノロジーを活用してバイオの機能を進化させた材料のことを「ナノバイオ材料」と呼ぶが,特に区別せずに使われることもある。
「バイオ・ナノプロセス」で新素子を創成
バイオ・ナノ材料やそれを使ったデバイスを作製するプロセスを「バイオ・ナノプロセス」と呼ぶ。バイオプロセスとは遺伝子操作やたんぱく質の自己組織化といったバイオテクノロジーを使う工程,ナノプロセスとは人工素材の微細化技術などのナノテクノロジーを使う工程であり,この両者を融合させて新たな機能を持った超微粒子などのナノレベルの材料や新原理のデバイスを作製するプロセスである。
バイオ・ナノプロセスを使って,超高密度なメモリ素子,新原理の論理素子,フレキシブルな新ディスプレイ素子,新しい製造プロセスによって低コスト化を達成できる素子,人体に親和性のある新素子などまったく新しい発想の新機能デバイスの開発を目指している。
たんぱく質の自己組織化による金属ナノ粒子使った新メモリ素子
松下電器産業と奈良先端科学技術大学は,「バイオ・ナノプロセス」で作成したナノ粒子を含むフローティング・ゲート型の半導体メモリ素子を開発した。
同プロセスは,(1)「フェリチン」という中に空洞のあるタンパク質を遺伝子操作によって合成,(2)フェリチンを金属イオンを含む水溶液に浸すことにより,空洞の中に直径6~7nmのナノ粒子を形成,(3)ナノ粒子をシリコン基板上に展開して自己組織化により2次元に配列,(4)酸化処理などによりたんぱく質を除去して金属ナノ粒子の配列パターンを作製,(5)金属ナノ粒子上に半導体微細加工プロセスによって酸化シリコン膜を形成し,MOS型のトランジスタを試作---という手順である。
こうして作製したフローティング・ゲート型の半導体メモリ素子は電荷の有無で情報を記憶する不揮発性メモリであり,ナノ粒子を使うことにより,電荷の保持性能が向上できる。大容量メモリや高速・低消費電力の論理素子を低コストで作製できる可能性があるという。
たんぱく質を利用した配線技術
米Cambrios Technology社は,LSI向けにCu配線のエレクトロマイグレーションを抑えるキャップ層(Co)を形成するプロセスをバクテリオファージ(細菌ウイルス)を使って形成するプロセスを開発した。Co微粒子の周囲にバクテリオファージに結合させておき,このCo微粒子を分散させた溶液をCu配線形成後のウエハー上にコーティングすれば,Cu配線上にCo微粒子が結合する(図1)。
このほか,プリント配線基板に向けにCu原子を結合させたバクテリオファージを分散させた溶液を使って基板にCu配線を印刷したり,液晶パネル向けに金属材料を結合させたバクテリオファージを使って透明電極を形成する試みを進めている。
たんぱく質を誘電体に使うトランジスタ
産業技術総合研究所は,鮭のDNAや「PMLG(poly-methyl L-glutamate)」と呼ぶタンパク質を誘電体層に用いて,強誘電性電界効果トランジスタ(FeFET)型のメモリ素子をプラスチック基板上に作製した(図2)。この誘電体層がゲート電圧に対して強誘電性を示すため,ドレイン電流-ゲート電圧特性が大きなヒステリシスを示し,メモリとしての機能を果たす。鮭のDNAとPMLGは,どちらもアミノ酸からなり「αへリックス構造」と呼ぶ2鎖の右巻きの棒状らせん構造をしており,塗布など印刷での素子作製に向いている。 用途としては,無線タグ(RFIDタグ)などを想定しているという。