【図】松下電器産業の「バイオ・ナノプロセス」の展示パネル。下に置いてあるパソコンで原理を解説していた
【図】松下電器産業の「バイオ・ナノプロセス」の展示パネル。下に置いてあるパソコンで原理を解説していた
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 松下電器産業は,遺伝子工学に基づいたバイオ技術とnmサイズの微細加工技術を融合した「バイオ・ナノプロセス」で作成したナノ粒子を含むフローティング・ゲート型の半導体メモリ素子の開発内容をパネル展示した(図)。同社と奈良先端科学技術大学が2005年末に発表したもの(ニュースリリース)で,今回松下電器は,同素子の可能性として,フィルム型のディスプレイなどの携帯端末を身につけて使うイメージ図をアピールした。

 ブースにはパソコンを置いて,「バイオ・ナノプロセス」をアニメ動画も交えて分かりやすく解説していた。出発原料は「フェリチン」というタンパク質である。これを遺伝子操作によってDNAを鋳型にして合成する。フェリチンの一分子は「ビーズ状」をしており,これが何個か集まって球状の分子を作る。球状分子の内部には直径7nm程度の空洞ができる。この分子を金属イオンを含む水溶液に浸すと,フェリチン球状分子の「ビーズ」と「ビーズ」の隙間から金属イオンが入り込んで空洞の中で金属が析出し,空洞の形状どおりの直径6~7nmのナノ粒子を形成する。

 この金属含有の球状フェリチン分子を含む溶液をシリコン基板上に展開すると,「自己組織化」の作用によって自然と整列してきれいに2次元状に並ぶ。タンパク質部分を酸化処理などにより消去してしまえば,金属ナノ粒子の配列パターンができる。球状フェリチン分子の直径は13nm程度ということなので,約3nmの間隔を空けて金属ドットが並ぶことになる。ここまでのプロセスは既に5年ほど前に発表済みである(Tech-On!の関連記事)。

 今回の発表で新しいのは,この金属ドットを使って,フローティング・ゲート型の半導体メモリ素子を試作して,動作させたことである。「バイオ技術を用いて作成したナノ粒子を含むフローティング・ゲートメモリを動作させることに世界で初めて成功した」という。

 半導体メモリ素子の試作に当たっては,金属材料として酸化コバルトを使用し,酸化コバルトを含有した球状フェリチン分子をシリコン基板に整列させた後,紫外線照射によってたんぱく質成分を除去して,酸化コバルト粒子だけが配列した基板を作成した。

 この酸化コバルト粒子上に,通常の半導体微細加工プロセスによって酸化シリコン膜を形成し,MOS型のトランジスタを試作した。フローティング・ゲート型の半導体メモリ素子は電荷の有無で情報を記憶する不揮発性メモリだが,ナノ粒子を使うことにより,電荷の保持性能が向上できるという。パネルではヒステリシス性のある電流−電圧特性のグラフも展示し,「ナノ粒子への電子/正孔の充放電が始めて確認された」と言う。まだ基本動作を確認した段階だが,今後高速・低消費電力の論理素子やメモリ素子を低コストで作成する可能性を拓いていきたいとしている。