EDA技術に関連した標準化では,数多くの団体が活動している。EDA関連の標準化の手続きは,次の3通りに分けられる。(1)デファクト標準が存在する場合,(2)業界団体で標準化を進める場合,(3)公的機関にて標準化し,認証される場合である。ここで(2)の場合には,その後(3)に移行してIEEEやIECなどで認証されることが多い。
EDA技術の標準は,ほとんどの場合,最終的にIEEE標準になっている。EDA関係のIEEE標準を,表1にまとめた。既に標準化されたもの,標準化手続き中のもの,標準化に向けて検討中のものに分けた。
IEEEでは,Design Automation Standardization Committee(DASC)が標準化活動を取りまとめている。まず,スタディ・グループ(SG)とワーキング・グループ(WG)の2段階で標準化の可能性を検討する。SGでは,標準化できるかどうか明確でない段階であっても専門家を集め,その方向性を検討する。標準化のメドが立てば,WGとして具体的な標準化日程を定め,WG内で標準の技術詳細を検討後に公開し,投票を経て最終的な標準として認証される。
ハードウエア記述言語はVHDLとVerilog-HDLが共存
デジタル回路向けのHDLとしては,VHDL(IEEE 1076-1993)とVerilog-HDL(IEEE 1364)が著名。両者ともIEEEの標準になっており,業界で広く使われている。1987年にVHDLがIEEE 1076として標準化されてからしばらくの間は,将来はVHDLが主流になるといわれていた。しかし,現在ではどちらの言語も利用され続けるという考え方が一般的になってきた1)。1995年にVerilog-HDLもIEEE標準になったことや,半導体設計でVerilog-HDLが数多く使われてきた実績があることなどがその背景にある。
VHDLは,1993年に最初の改訂が行なわれ,現在はIEEE 1076-1993と呼ばれる。VHDL,Verilog-HDLともにさまざまな拡張に関する標準化が進んでいる。
中でも,デジタル回路だけでなく,アナログ回路も記述できるようにするための拡張に対する標準化への感心は高い。標準となる予定の仕様をサポートするシミュレータを発売したEDAベンダもある2)。VHDL(IEEE 1076.1)はIEEEで,Verilog-HDLは米Open Verilog International (OVI:Verilog-HDLの推進団体)で,それぞれアナログ拡張の標準化が行なわれている。VHDLのアナ-デジ拡張版VHDL-AMSは1999年3月にIEEE 1076.1として標準化された。
IPとハードウエア・モデリングはシステムLSI開発のキー
Open Modeling Interface(OMI)は,モデルとシミュレータのインタフェースを規定するIEEE 1499として標準化された。OMIは1994年からOpen Modeling Forum(OMF)として活動が始まった。言語に依存せず,VHDL,Verilog-HDL,C言語,その他の記述言語で書かれたコンポーネント・モデルに対するシミュレータのインタフェースを規定している。
この標準に従って開発されたモデルはOMI準拠シミュレータで利用でき,ハードウエア部品としてのIPコアの観点から見ると,プロテクトされた実行可能モデルとして配布することができる。Virtual Socket Interface Allianceでも採用され,今後ますます重要となる標準である。
異なる供給元からのIPコアを組み合わせてシステムLSIを設計する際には,それらIPコア間のインタフェースの標準が必要となる。VSIAは,業界標準インタフェース仕様の定義,開発,認証,試験,その普及を目指している。標準仕様に盛り込まれるのは,データ・フォーマット,テスト手法,インタフェースなどである。世界中の半導体メーカー,システム・メーカー,EDAベンダー,IPコア・ベンダー,テスト装置(テスタ)メーカーなど200社以上が会員となっている。6つのワーキング・グループの活動があり,Virtual Components(VC)に関連したデータ・フォーマットの標準定義,IPコアの不正な使用を防ぐための保護方法,VCとシステムLSIをテストするためのガイド・ライン,アナログ・デジタル混在LSIの設計/テストのガイド・ライン,オンチップ・バスの標準,システム設計に関連するVCの命名法とインタフェースなどが検討されている。
「ディープ・サブミクロン」時代の遅延と消費電力計算
米Cadence Design Systems, Inc.で開発したStandard Delay Format(SDF)は,電子機器設計過程における遅延データの表現/解釈方法を規定している。1993年にOVIにて第2版が発表され,デファクト標準としての地位を確立した。その後,1994年に第2.1版,1995年に第3版を発表し,1996年からIEEE P1497として標準化活動が始まった。
遅延と消費電力の計算機構の標準化を目指して,Delay & Power Calculation System(DPCS)は,米IBM Corp.から提供されたDelay Calculation Language(DCL)とProcedural Interface(PI)を基にした部分と,Synopsys社から提供されたPhysical Design Exchange Format(PDEF)やCadence社のSPFを基にしたStandard Parasitic Exchange Format(SPEF)部分から成る。PDEFやSPEFはOVIが標準化を進めてきたが,最終的に1999年6月には正式な標準IEEE 1481となった。
米国の非営利団体SI2は,遅延/消費電力計算機構を記述できるDCLのコンパイラを提供し,DCLを拡張したOpen Library API (OLA)の普及活動も行なっている。
新たな標準化検討が進む
Verilog-HDLはその歴史的背景から,PLI(Programming Language Interface)は共通のものが存在した。しかしVHDLは,検証用シミュレータごとに異なるPLIが存在している。すなわち,シミュレータを変更すると,これまで使用していたPLIのコード部分をすべて書き換えなければいけないことになる。これを解決するために,VHDLのPLI(VHPI)の標準化が1997年より始まった。1999年から2000年にかけて,IEEEの正式標準になる可能性が高いと考えられる。
VHDLのシステム・レベルへの拡張検討が複数のSGで行なわれている。System and Interface Design(SID)は,VHDLに対して,部品間の通信方法を抽象化することを提案している。VHDL+と呼ばれる言語ベースの処理系が既に市販されている。一方,Object Oriented VHDL(OOVHDL)は,VHDLをオブジェクト志向拡張するための技術課題を検討している。ヨーロッパ中心に検討を進めているObjective VHDLと,オーストラリア(と米国)のSuaveという2つのグループが別々に検討していたが,徐々に一本化されていくことが考えられる。
システム・レベル設計言語としては,SLDL(system level design language)を新たに開発しようという動きがある。VHDLやVerilog-HDLを拡張するのではなく,まったく別の言語設計を行ない,設計制約など従来言語では表現できなかった項目を表現できる特徴をもつ。従来言語やC言語をはじめとするプログラミング言語をプラグインできる機能をも備える。1996年ころから専門的な検討が進められ,言語仕様のドラフトができつつあるが,標準化までの道のりは遠い。
JEITAが標準化活動推進
米国でのEDA関連の標準化活動に対して,日本では電子情報技術産業協会(JEITA)のJEITA/EDA技術専門委員会は,国内の電子機器/半導体関連企業とEDAベンダーのメンバー,大学/研究機関等からの客員メンバーで構成され,世界の関連機関と連携した活動を行なっている。この委員会では,EDA関連標準の国内業界代表組織として活動している。具体的には,各分野の専門家によってVHDLプロジェクト,1364HDLプロジェクト(Verilog-HDL),DPCプロジェクト(Delay and Power Calculation),アナログHDLプロジェクト,SLD研究会を設置し,標準化活動やその普及に協力している。さらに,ビジョン研究会を設置し,EDA技術ロードマップを作成,EDAテクノフェア/EDATフォーラムの主催などEDAに関するさまざまな活動を行なっている。
表1■IEEE標準
分類 | 標準 番号 | 標準化(予定)年 | 略称 | 概要 | 状況 |
既存標準 | 1076 | 1993 | VHDL | VHDL本体 | 1987年に標準化し,1993年1回目改訂 |
1076.1 | 1999 | VHDL-AMS | VHDLのアナログ拡張 | − | |
1076.2 | 1996 | − | VHDL数値演算パッケージ | − | |
1076.3 | 1997 | − | VHDL論理合成パッケージ | − | |
1076.4 | 1995 | VITAL | VHDLのゲート・レベル・ライブラリ | − | |
1029.1 | 1997 | WAVES | 波形 | 1997年に1回目の改訂 | |
1164 | 1993 | MVL9 | VHDL9値パッケージ | − | |
1364 | 1993 | VerilogHDL | Verilog-HDL本体 | − | |
1481 | 1999 | DPC | 遅延、消費電力計算機構 | − | |
1499 | 1999 | OMI | モデリング・インタフェース | − | |
手続き中 | 1076 | 1999 | VHDL | VHDL本体 | 1998年中に2回目の改訂予定であったが,1999年にずれ込む |
1076a | 1999 | − | VHDLのshared variable | 投票完了し,正式標準となる手続き中VHDL-1999でLRMも修正される予定 | |
1076.4 | 1999 | VITAL | VHDLのゲート・レベル・ライブラリ | 1999年2回目の改訂予定 | |
1076.6 | − | − | VHDLのRTLサブセット | 第1回目の投票完了し,再投票準備中 | |
1364 | 1999 | Verilog-HDL | Verilog-HDL本体 | 1999年に1回目の改訂予定 | |
1364.1 | 2000? | − | Verilog-HDLのRTLサブセット | 標準化作業中 | |
1497 | ? | SDF | 遅延時間情報 | − | |
検討中 | 1076.5 | 未定 | − | VHDLライブラリ・ユーティリティ | 標準化見込みなし |
SG | 1999? | VHPI | VHDL用PLI | 非常に活発に活動を進めている1999年6月投票,末頃の標準化を目指すVHDL-1999との係は未定 | |
SG | 未定 | OOVHDL | VHDLのオブジェクト志向拡張 | ObjectiveVHDLとSUAVEという2つの流れがある | |
SG | 未定 | SID(VHDL+) | VHDLのシステムレベル拡張 | WGへの格上げを検討中 |
*SGは、標準となる候補(PAR)ではないが、検討中のもの
表2 標準化関連国際会議
略称 | 国際会議名 | URL |
DATE | Design Automation & Test in Europe | http://www.date-conference.com/ |
HDLCON | HDL Conference: IVC / VIUF combined conference | http://www.hdlcon.org/ |
CHDL | Computer Hardware Description Languages and Their Applications | http://www.ececs.uc.edu/~chdl99/ |
DAC | Design Automation Conference | http://www.dac.com/ |
FDL | Forum on Design Languages | http://www.ecsi.org/ecsi/fdl/fdl99/ |
APCHDL | Asia Pacific CHip Design Languages | http://kasuga.csce.kyushu-u.ac.jp/apchdl99/ |
ICCAD | International Conference on Computer Aided Design | http://www.iccad.com/ |
ASP-DAC | Asian & Pacific Design Automation Conference | http://www.aspdac.com/ |
(99. 9. 6更新)
■参考文献
1)『EDA技術委員会VHDLプロジェクト:VHDLに関するアンケートの結果報告』,1996年3月,日本電子機械工業会
2)中山,「アナ-ディジ混在回路設計自動化の扉が開く」,『日経エレクトロニクス』,1995年8月21日号,no.642,pp.113-134
このEDA用語辞典は,日経エレクトロニクス,1996年10月14日号,no.673に掲載した「EDAツール辞典(NEC著)」を改訂・増補したものです。