2013年6月28日に日経エレクトロニクスが主催したセミナー「NE先端テクノロジーフォーラム 次世代パワー半導体のインパクト」(協賛:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン)から、産業技術総合研究所 先進パワーエレクトロニクス研究センター 研究センター長を務める奥村元氏の講演を、日経BP半導体リサーチがまとめた。今回はその第2回(第1回)。
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 ワイドギャップ半導体とはそもそも何か、ということをおさらいしておこう。図1に周期律表の一部を示したが、この表の第2周期の元素を使っているのがワイドギャップ半導体の特徴である。第2周期にあるCやN、Oなどは軽元素と呼ばれる小さい元素である。これらの元素が結晶を作ると、原子の結合距離が短くなって結合力も強くなる。結果として、熱伝導度や絶縁破壊電界、飽和ドリフト速度などが非常に高くなる。化学的にも安定であるため、高温動作する素子や大出力の素子、高周波のパワー素子などを作ることができる。

図1●ワイドギャップ半導体とは
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 ワイドギャップ半導体の代表格が、Siの炭化物であるSiCだ。また、窒化物ではGaNが重要な材料である。この他、酸化物にもパワー・デバイスに使えるものがあるだろう。

 図2に、SiCの代表的な結晶構造を示した。SiCは立方晶/ジンクブレンド(Zincblende)と呼ばれる構造、または六方晶/ウルツァイト(Wurtzite)と呼ばれる結晶構造を取る。もう少し詳しくみると、六方晶のSiCは結晶学的には六角柱の形を取り、原子が層状に積み重なっている。SiCの結晶にはこの積層構造の違いに応じてさまざまなバリエーションがあり、これを「ポリタイプ」と呼ぶ(図3)。図3に示したさまざまな結晶構造の中で、最近特にパワー・デバイスで有望視されているのが、4H-SiCと呼ばれる構造である。

図2●SiC半導体の結晶構造
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図3●結晶構造の違いとポリタイプ
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 半導体デバイス材料として使うためには、できるだけシングル・フェーズに近い結晶が必要である。ところが、SiCにはさまざまなポリタイプが存在するため、従来はきれいな結晶を作ることが非常に難しかった。SiやGaAsなどに比べて、SiCのデバイス開発が遅れていた理由の一つに、この結晶の問題がある。