2013年6月28日に日経エレクトロニクスが主催したセミナー「NE先端テクノロジーフォーラム 次世代パワー半導体のインパクト」(協賛:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン)から、産業技術総合研究所 先進パワーエレクトロニクス研究センター 研究センター長を務める奥村元氏の講演を、日経BP半導体リサーチがまとめた。今回から5回にわたって紹介する。
_______________________________________________________________________________


 昨今のエネルギー消費量の増加には目を見張るものがある。熱エネルギーや化学エネルギーなど、いろいろな形態のエネルギーが使われている。中でも、電力エネルギーは非常に使いやすいため、さまざまな用途で利用されている。総消費量が増えている上に、そのうちの電力の比率(電力化率)が高まっているため、電力エネルギーは今後のエネルギー消費の中心になっていくだろう。

 またこれからは、無駄のない効率的なエネルギーのハンドリングが望まれ、この膨大な電力エネルギー消費をいかに制御していくかが重要になってくる。その中核となる技術が、いわゆるパワー・エレクトロニクスである。

 図1に、発電から消費に至る電力エネルギーの流れを示した。各部分の要素技術は比較的理解しやすいが、システム全体を効率的に運用しようとすると、これは非常に難しい問題である。これはある意味で、工業製品や農産物の物流ネットワークに似ている。いろいろなところに分岐点があり、そこでのコントロールが全体の効率を決める。電力の場合はその作業を「変換」と称しており、さまざまな電力変換器や開閉器を利用している。この電力変換をより効率的なものに変えていく上で、パワー・デバイスが今後ますます重要になってくるわけだ。

図1●電力エネルギーの流れとパワー・エレクトロニクス
[画像のクリックで拡大表示]

 図1の左下に示した図は、横軸を動作周波数、縦軸を電力変換容量とし、さまざまな応用分野をマッピングしたものである。この図から、パワー・エレクトロニクスに期待される領域が極めて広範囲にわたることが分かる。電力変換容量でみると、小さいものはパソコンやIT機器の電源から、大きな方では送電系まで幅広い。動作周波数でみても、数十Hzという非常に低いものから、1MHzという高いところにまで及んでいる。

 このように、仕様が極めて広範囲にわたるという点が、情報処理や通信の分野で使われるメモリやロジックなどのデバイスと大きく異なる点である。これは、パワー・デバイス分野で標準化の動きがあまり進んでこなかった理由の一つともなっている。

パワエレの利用範囲を広げる

 ここにきて、パワー・エレクトロニクスは電力の効率的運用や省エネの切り札と認識されるようになり、もっと広い領域でこの技術を活用していこうという動きが出てきた。そのためには、Siデバイスを中心とする現在の半導体技術では限界があることから、より高性能のデバイスが求められている。そこで期待を集めているのが、ワイドギャップ半導体である。SiCやGaNに代表される、バンドギャップの広い新しい半導体材料のことだ。

 産業技術総合研究所(産総研)では、これらの新しいパワー半導体の省エネ効果について、いろいろな技術を対象に網羅的に調査をしたことがある。その結果の一部を図2に示したが、2030年の時点で年間4047万トンのCO2削減につながることがわかった。これは原子力発電所数基分に相当する。

 もっとも、現在のパワー・エレクトロニクスの主流であるSi半導体をワイドギャップ半導体で置き換えていく効果よりも、これまでパワー・エレクトロニクスを適用してこなかった分野にインバータなどを導入する効果の方がずっと大きいことに注意していただきたい。図2はそれを含めた効果である。

図2●パワエレ全体でのCO2削減効果
[画像のクリックで拡大表示]