ルート (アライドテレシスグループ) 代表取締役の真野 浩氏
ルート (アライドテレシスグループ) 代表取締役の真野 浩氏
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 無線LANの使い勝手を向上するための取り組みが進んでいる。標準化団体であるIEEE802.11において、無線LANのセキュリティー認証プロセスを大幅に高速化するための作業部会「IEEE802.11ai」(Fast Initial Link Setup)が、2011年初頭に立ち上がった(Tech-On!の関連記事)。11aiでは、セキュリティー認証にかかる時間を1/10程度まで短縮することで、無線LANのリンク接続時間を短くし、歩行時や自動車移動時などの使い勝手を高める。同作業部会の議長を務めるのは、国内で無線LAN関連事業を手掛けるルート (アライドテレシスグループ) 代表取締役の真野 浩氏である。真野氏に、11aiの活動状況について聞いた。


――11aiでは、どのような利用シナリオを想定しているのか?

真野氏 ユーザーの歩行時などの移動時において、高速に無線LANのリンクを確立することを目指している。例えば、鉄道のターミナル駅において、電車からドッとユーザーが駅に降り立った際、一斉に端末からアクセスして情報をアップロードするといったものだ。また自動車で、どこかのチェック・ポイントを通過した際に、何らかの情報提供を受けるなどもある。端末としてはスマートフォンなどの携帯機器で、アクセス・ポイント側にはデジタル・サイネージの利用なども想定されている。

 こうした利用シナリオを実現するためには、例えば1秒間に100台の端末に接続するといった高速性が求められる。リンク・セットアップ時に電波を占有する時間は、10m秒以下になる。11aiでは、こうした高速認証を実現するための、手法について検討している。


 認証を高速化しても、セキュリティーの強度は十分高くなければならない。この点は非常に重要である。このため11aiでは、提案に対して高いセキュリティーを実現できることを求めている。また、IETFやNISTなどにおいてセキュリティーに関連するスタッフも、11aiの討議に参加している。


――11aiの仕様策定は、現在どのような状況にあるか?

真野氏 作業部会の討議は順調に進んでいる。想定される利用シナリオをまとめたり、機能要求仕様や技術要求も固まった。さらに、今後どのような手順で仕様を決めていくかについてもまとまっている。既に、技術提案を受け付けられる状況にある。

 11aiでは、仕様策定が順調に進むように、あらかじめ提案のガイドラインを明確に定めた。作業部会のメンバーで頻繁に電話会議も行っており、合意形成を重視しながら進めている。このため、有力な技術提案が対立して、なかなか仕様策定が進まないというような状況は、避けられるだろう。11aiに関しては、もともとのコンセプトが明確であり、やりたいことも決まっている。順調に行けば、2012年3月には、ドラフト仕様の投票を作業部会内で行うところまで進むと考えている。

――11aiの作業部会では、どのような企業が活発に取り組んでいるのか?

真野氏 無線LANの主要半導体メーカーは皆、取り組んでいる。それに加えて、スマートフォンのメーカーも積極的だ。例えばカナダRIM社や米Motorola社、フィンランドNokia社などである。11aiを使えば、接続が高速化される。こうなると、結果的に端末がデータ通信を行っている時間を短くできるため、消費電力の低減にも寄与する。こうした点に期待する機器メーカーもあるようだ。

――無線LANに関しては現在、現行の2.4GHz帯や5GHz帯だけでなく、900MHz帯や600MHz帯などの低い周波数帯を活用する動きが出ている。こうした取り組みをどう見ているか?

真野氏 確かに、サブ1GHzの利用や、TVホワイトスペースの利用に向けた動きがある。これらはいずれも、無線の電波資源が足りないことから来ていると思う。こうした新たな取り組みを考える上で、僕が個人的に気にしているのは、「ISMバンドかどうか」ということである。

 僕は、無線LANにとってのイノベーションは何かと問われたら、スペクトラム拡散技術でもOFDM技術でもなくて、ISMバンドを使ったことだと思う。無線LANがISMバンドを利用するまで、同バンドは使い物にならない帯域とされていた。そこを使えるようにしたことに、大きな意味がある。

 皆がこうだと決め付けている常識を超えることが、イノベーションと呼べるものだろう。常識というか、いわゆる「バカの壁」的なものを打ち破るものだ。無線LANは、「ダメダメなISMバンド」という一般的な常識を打ち破った。そう考えると、専用周波数が用意されるようなサービスではなくて、アンライセンス・バンドのような所で無線LANを使ったときにこそ、イノベーションが起きるのではないか。例えば米国の場合、900MHz帯にもISM帯がある。これはインパクトがありそうだ。米国のTVホワイトスペースに関しても同様である。放送業界がほぼ独占していた周波数を、ノンライセンスに近い形でほかの事業者に解放するという点に驚きがある。そういう意味では、TVホワイトスペースはイノベーションを起こせる可能性があると思う。

 日本でもホワイトスペースの議論はあるけれど、残念ながら用途が限定されている感がある。この点はもったいない。せっかくイノベーションを起こし得るコンセプトであるならば、もっと新たなサービスを創出できるような枠組みにするべきだ。


――11aiのシステムの試作は、既に進めているのか?

真野氏 11aiというわけではないが、そのベースとなった技術に関して、社内で試作は進めている。2011年9月18~23日まで、沖縄で開催されるIEEE802委員会の会合では、この試作装置のデモを実施する予定である(IEEE802.11の関連ページ)。日本でIEEE802委員会の会合が開催されるのは、非常にまれなことである。この機会を生かして、11aiをはじめ、802.11,15等の標準化活動の重要性などを、もっと日本の業界関係者にも知ってもらいたいと考えている。